
たまごの価値、いのちの価値
テレビがいっている。たまごの値段が、三割増しになったとか。消費者もいっている。 「たまごが、こんなに値上がりするなんて!」。一日に三〇〇個をつかうというお店の人もいっている。「たまごなしの料理を作るしかない。お手上げです」。
たまごの値段が高くなった理由は、エサ代の高騰と、鳥インフルエンザでたくさんの鶏が殺処分されたことによるという。みんな、たまごは安くて便利で、あたりまえのように手にはいるものだと思っているから、それはとても困ると嘆いているのだ。
だけど、たまごがどうやって私たちの手に届くのか考えてみてほしい。たまごをうむ鶏がどんな環境にいて、飼育されているのか、考えてほしいのだ。
私は、六年前、犬のさくらを看取るとき、獣医師のY先生にお世話になった。そのY先生が紹介してくれたのが、『いつか空の下で さくら小ヒカリ新聞』の河原さんのモデルになったHさんだった。Hさんは実際に養鶏場で働いていた。
私は、Hさんの話をかみしめればかみしめるほど、なんともいえない憤りに突き動かされた。Hさんや私の思いを、なんとしてでも、物語に書き表したい。取材をすすめながら、私は「動物福祉(アニマルウェルフェア)」を知った。
アニマルウェルフェアとは、ひとことでいってしまえば、家畜動物たちの生きる権利やしあわせを守る法律である。人間は、アニマルウェルフェアにのっとって、家畜を飼育しなければならない。そういうごく自然なことが、ちっとも生かされていないのが日本の現実である。
私の書いた本を読んで、アニマルウェルフェアについて、学校や親子で話し合ってもらったり、そして今回、たまごの値段が高くなったことで、将来の鶏たちの生育環境の改善につながっていったりするようであれば、本当にうれしい。
(ほり・なおこ)●既刊に『セラビードッグのハナとわたし』『わんこのハッピーごはん研究会!』『俳句ガール』など。
汐文社
『いつか空の下で さくら小ヒカリ新聞』
堀 直子・作/あわい・絵
定価1,650円(税込)