
声か態度か
マーシャ・ブラウンのものを訳した瀬田貞二さんの訳書のおかげで、3びきのやぎとトロールのやりとりについてのお話は、それがノルウェーの昔話であることをどれだけのひとが承知しているかはともかく、日本でもひろく知られている。共通の名前をもつ(ということは姓?)三兄弟のやぎが、食ってやろうと待ち構えているトロールをまんまとだまして、しまいにはやっつけてしまうという、やぎの勝ち! のお話だが、やぎさんたち、勝ってよかったネ、とすんなり喜んであげられない、なんだか落ち着かない終わりかたをしているところがこのお話のふしぎな魅力である。
やぎの三兄弟の名前は、ノルウェー語では「Bruse」、英訳では「Gruff」である。名前なのだから、変に訳さずに音をカタカナ表記すればいいのだが、名は体をあらわすという言い方があるように、名前が名の持ち主の性質をあらわしているケースも少なくないし、お話の世界ではそういうことがよく意図的におこなわれる。そこで、英語のほうの「Gruff」を調べてみると——
①どら声の、しわがれ声の
②非友好的、ぶっきらぼうの
と、形容詞としてふたつの意味があるのがわかる。①のほうは音についた場合で、②のほうは態度についた場合だ。瀬田さんは、明らかに、①をとり、やぎの、とりわけ長男のやぎのどなり声にむすびつけて、「がらがらどん」とした。なんだか楽しいみごとな命名だ。
しかし、今回、このなかなかにポップにしあがっているお話を読んでいてだんぜん印象にのこったのは、三兄弟のとんでもなくクールな態度である。バカにしているというかぶっきらぼうというか、そのけろりとした態度は、じつにノリのいい熱いトロールとは対照的だ。そこで、だんぜん、②のほうをとり、けろりとした三兄弟という意味で「どんけろり」とした。「どん」をつけたのは、もちろん、瀬田さんへのオマージュである。
(あおやま・みなみ)●既訳書に『アランの歯はでっかいぞ こわーいぞ』『エイモスさんが かぜを ひくと』『蛾 姿はかわる』など。
化学同人
『三びきのやぎのどんけろり』
マック・バーネット・文/ジョン・クラッセン・絵/青山 南・訳
定価2,420円(税込)