日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『戦争をやめた人たち…1914年のクリスマス休戦…』 鈴木まもる

(月刊「こどもの本」2023年3月号より)
鈴木まもるさん

想像力が平和をつくる

「人と戦争」をテーマにした絵本を描きたいと、ずっと思っていました。

 今までに多くの「戦争」を扱った絵本や童話があります。過去に戦争を経験された方が、その悲惨な体験を書かれたものがほとんどです。それは語り継いでいくことは大切な事だと思います。でも自分は戦後生まれで、実際に体験していないので、そういうものは描けません。

 一方、「平和は大切、戦争反対」というメッセージをダイレクトに伝える絵本もありますが、それも、ちょっと自分のしたい表現とは違う気がしていました。悲惨な現実でもなく、表面的な言葉だけでもない形で、子供たちの心に「人と戦争」を伝える方法をいろいろ模索していました。

 一昨年の夏、偶然、第一次世界大戦の時に起こった「クリスマス休戦」という史実を知りました。「戦時下、クリスマスの歌をきっかけに、サッカーをやった人達がいる」という事実を知り、「伝えたいのはこれだ!」と思いました。無事出版社に企画が通り、昨年の2月3日から絵を描き始めました。どんどん絵はできていき、2月25日、最後の「あとがき」の部分の絵を描いているとき…、なんとロシアがウクライナに侵攻をはじめました。まさか今の世の中でまた戦争がはじまるとは思っていませんでした。

 描きはじめた当初は、戦争なんて遠い過去の事だから、最後は自然環境や隣人への思いやりといった言葉で幕を閉じようと思っていたのですが、実際に戦争が起きてしまったので、最後の言葉を書き、絵も新たにしました。

 戦争をはじめるのも人ですが、戦争をやめられるのも人です。

 国や宗教、言葉を超えて相手を思う想像力と、音楽やスポーツ、芸術活動(もちろん絵本も!)など、その人なりに自分らしく生きるという創造力、それらを行動で表す勇気が戦争をやめる力を生みだすのだと信じています。

 この絵本が、ウクライナの人たちの幸せに少しでもつながるよう願っています。

(すずき・まもる)●既刊に『あるヘラジカの物語』(星野道夫/原案)、『鳥は恐竜だった』『せんろはつづく』など。

『戦争をやめた人たち…1914年のクリスマス休戦…』
あすなろ書房
『戦争をやめた人たち…1914年のクリスマス休戦…』
鈴木まもる・文・絵
定価1,650円(税込)