日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『銀ギツネのドミノ』 あべ弘士

(月刊「こどもの本」2023年1月号より)
あべ弘士さん

『銀ギツネのドミノ』秘話

 きのう(10月25日)の夜半、キタキツネが さかんにないていた。

 私の家は街はずれにある。人の手の入っていない土手の下にオサラッペという川が流れ、そのむこうはアイヌの人々の聖地である森だ。

 キツネが さかんにないている。木の葉はぜんぶ落ち、いつ雪になってもいいセピア色の風景(夜なので黒か)の中、ないている。母ギツネだろう。子どもたちは すでに大きくなり、子別れした。無事冬を越せよ、とないているのだろうか。もの悲しくひびく。


 旭山動物園時代の話。

 山からキタキツネが保護されやってきた。前あしが脱臼していた。獣医はなんとしてもうまくいかない。それで街の名人とよばれるほねつぎ師に来てもらった。すぐなおした。

“神の手・ゴッドハンド”のあだ名の通り、狐つき技に目をみはった。

 もひとつ。

 銀ギツネとキタキツネをいっしょに飼っていた。赤ちゃんが5匹うまれた。そのうちの1匹が背中に十字型の模様をしている。いわゆる十字ギツネだ。だいじに育てられた。なにしろ十字架を背おっている。

 さて、シートンの銀ギツネ・ドミノである。

『シートン動物記』は少年時代読んだ。学校図書館にあった。かなり夢中だったように記憶している。が、今回シートンシリーズをやるにあたって、改めてしっかり読んだが、すっかり忘れていたもんだ。タイトルしか覚えていなかった。シートンは偉大なナチュラリストだ。しかも難しい自然科学をやさしい言葉で物語化し、子どもたちに伝えている。絵もうまい。そのはず本格的に勉強している。ロボに涙し、リスのバナーテイルに笑った。この感動をどう絵本化するか。荒海にこぎだした小舟の心境で5冊こぎつけた。シートンさんが「よくやった。すこしは私の心が伝わっているぜ」と言ってくれたら、嬉しい。

(あべ・ひろし)●既刊に『どうぶつ句会』あべ弘士のシートン動物記①『オオカミ王ロボ』『アリューシャン・マジック』など。

『銀ギツネのドミノ』"
Gakken
『銀ギツネのドミノ』
E・T・シートン・原作/あべ弘士・作・絵
定価1,540円(税込)