
『銀ギツネのドミノ』秘話
きのう(10月25日)の夜半、キタキツネが さかんにないていた。
私の家は街はずれにある。人の手の入っていない土手の下にオサラッペという川が流れ、そのむこうはアイヌの人々の聖地である森だ。
キツネが さかんにないている。木の葉はぜんぶ落ち、いつ雪になってもいいセピア色の風景(夜なので黒か)の中、ないている。母ギツネだろう。子どもたちは すでに大きくなり、子別れした。無事冬を越せよ、とないているのだろうか。もの悲しくひびく。
旭山動物園時代の話。
山からキタキツネが保護されやってきた。前あしが脱臼していた。獣医はなんとしてもうまくいかない。それで街の名人とよばれるほねつぎ師に来てもらった。すぐなおした。
“神の手・ゴッドハンド”のあだ名の通り、狐つき技に目をみはった。
もひとつ。
銀ギツネとキタキツネをいっしょに飼っていた。赤ちゃんが5匹うまれた。そのうちの1匹が背中に十字型の模様をしている。いわゆる十字ギツネだ。だいじに育てられた。なにしろ十字架を背おっている。
さて、シートンの銀ギツネ・ドミノである。
『シートン動物記』は少年時代読んだ。学校図書館にあった。かなり夢中だったように記憶している。が、今回シートンシリーズをやるにあたって、改めてしっかり読んだが、すっかり忘れていたもんだ。タイトルしか覚えていなかった。シートンは偉大なナチュラリストだ。しかも難しい自然科学をやさしい言葉で物語化し、子どもたちに伝えている。絵もうまい。そのはず本格的に勉強している。ロボに涙し、リスのバナーテイルに笑った。この感動をどう絵本化するか。荒海にこぎだした小舟の心境で5冊こぎつけた。シートンさんが「よくやった。すこしは私の心が伝わっているぜ」と言ってくれたら、嬉しい。
(あべ・ひろし)●既刊に『どうぶつ句会』あべ弘士のシートン動物記①『オオカミ王ロボ』『アリューシャン・マジック』など。
Gakken
『銀ギツネのドミノ』
E・T・シートン・原作/あべ弘士・作・絵
定価1,540円(税込)