日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『ちいさいフクロウとクリスマスツリー』 福本友美子

(月刊「こどもの本」2023年1月号より)
福本友美子さん

前代未聞のクリスマス

 ニューヨークのマンハッタンにあるロックフェラーセンターでは、毎年クリスマスシーズンの始まりに巨大なツリーの点灯式が華々しく行われます。大勢の観客が集まって見守るその様子は、全米にライブ放映され、大いに盛り上がります。ツリーは、周辺の州の森から大きな木を選んで伐採し、トラックで何時間もかけて運ばれるのですが、二年前に、前代未聞の出来事が起こり大ニュースとなりました。運ばれてきた大きな木の中から野生のフクロウが発見されたのです。てのひらにのるくらいの小さなこのフクロウは、アメリカキンメフクロウという種で、この木をすみかとしていたのでした。

 この絵本は、この出来事をフクロウの立場から描いています。どんなに話題になろうとも、森で静かに暮らしていたフクロウにとっては大迷惑だったに違いありません。ぱっちりした目を見開いて、フクロウは何かを訴えているように思えます。

 この本の絵を描いたジャネット・ウィンターは、偉大な業績を残した人の生涯や、実際に起こった出来事をもとにした絵本を数多く作っています。

 私はこれまでジャネットの絵本を『わたしたちの家が火事です』(鈴木出版)など七冊翻訳しており、そのご縁で、ニューヨークに行くたびにお会いして交流を深めてきました。セントラルパークのそばの閑静な住宅街に住む彼女は、今年で八十四歳。小柄で物静かな人ですが、話し出すと、世界中で起こっていることに常に関心をもち、創作につなげようとするエネルギーがあふれだします。昨年、息子と一緒にこんな絵本を出したのよ、とメールがあり、フクロウもクリスマスツリーも大好きな私は、ぜひとも翻訳したいと思ったのでした。

 何といってもこのフクロウのかわいいこと! そして小さな命を守ろうとする人たちの気持にも心打たれました。人工的なクリスマスツリーと野生の生命の共存を描いたこの絵本を、ぜひ読んでほしいと思います。

(ふくもと・ゆみこ)●既訳書に『虫ガール』『すうがくでせかいをみるの』『ニッキーとヴィエラ』など。

『ちいさいフクロウとクリスマスツリー』"
鈴木出版
『ちいさいフクロウとクリスマスツリー』
ジョナ・ウィンター・文/ジャネット・ウィンター・絵/福本友美子・訳
定価1,650円(税込)