日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『なりたいわたし』 村上しいこ

(月刊「こどもの本」2023年1月号より)
村上しいこさん

思春期の周辺

 正直に言います。私は少女たちを描くのが得意ではありません。それでもこのモデルになった彼女たちと出会って、どうしても書きたいという気持ちに駆り立てられました。遠くから見ていると同じように育っているかのように映る木も、近くで見ればみんな違います。日常生活の中で取り立てて大事件があったわけではなく、けんかをするわけでもない。それでも彼女たちの心はいつも繊細に揺れ動き、塞ぎ込んだり、時には自ら仲間はずれになろうとします。そうした彼女たちの浮き沈みする心に寄り添える作品は書けないだろうか。

 この物語は学童クラブで放課後を過ごす四人の少女が主人公です。なかでも千愛ちなるはのんびりとした素直な性格で、周囲の大人たちから見れば、問題のない扱いやすいコドモです。彼女だけでなく本当の意味で人が成長する力というのは、自分が変化の中に置かれたときに気付くものです。千愛以外の三人が四年生からはもう学童クラブへ来ないと知ったとき、はじめて彼女は自分の成長を自覚します。

 明日は未来につながっていて、その向こうにはそれぞれ違う世界が広がっていて、そこへ足を踏み入れるためには、痛みを伴うこともあります。この作品を書くとき、勇気を出してとか大人は簡単に言うけど、彼女たちにとってはそう簡単ではないと、まずはじっくりと彼女たちと向き合い、共感することが必要でした。

 三、四年生といっても、彼女たちはもう思春期の周辺にいて、その悩みも言葉にできないことが多いのです。その、彼女たちですら言葉にできない心の有りようをどう書けばいいのか苦しみました。「それは違いますね」「もう少し表現を」と、いつもの倍以上編集者さんとやり合っているので、きっといい作品になっていると思います。何よりも、この作品と出会えてよかったと、そう言ってもらえればとても嬉しく、それ以上の喜びはありません。

(むらかみ・しいこ)●既刊に『げたばこかいぎ』『タブレット・チルドレン』『みんなのためいき図鑑』など

『なりたいわたし』"
フレーベル館
『なりたいわたし』
村上しいこ・作/北澤平祐・絵
定価1,430円(税込)