
顔の力
久しぶりに友達の家を訪ねたときのことです。小さな子供に「いないいない」で顔を隠せば不安な顔になり、「ばあ」で変顔を見せると笑顔に早変わり。小さな子は人の顔をよくみているなとしみじみ感じました。笑顔に浮かれた私は「今度の絵本の題材はにらめっこにする」と決めたのです。当時、コンクールへの応募を始めて5年が経ち、なかなか出版の糸口が掴めず迷っているところでしたが「子供が笑顔になる絵本を描く」という具体的な目標ができました。
そして、にらめっこの絵本を描くのなら、主人公の顔面にインパクトが必要だと考えました。自分のレパートリーの中で、インパクトのある顔面といえば、厳めしい顔をした野菜のキャラクターです。
この厳めしい顔のルーツは高校時代の漢文にあり、当時、漢文の教科書に載っていた『史記』の「鴻門之会」が大好きだったので、資料に載っている項羽・劉邦などの顔をよくラクガキしていました。描き続けるうちにもとの顔とは大きく離れたものになりましたが、描きなれた愛着のある顔です。
「よし、あの顔だ! 土から生えただいこんがあの顔でにらめっこしたら、きっとおもしろいぞ」
いざ絵本を描き始めたら、今までで一番するするとストーリーが思い浮かび、表情を描くことも、とても楽しかったです。
完成した『にらめっこだいこん』は、和歌山県有田川町の「有田川町絵本コンクール2021」で優秀賞と有田川賞をいただきました。授賞式の懇親会では、有田川町の皆さんの受賞作へのコメントを放映していただき、「この顔が好き!」や「わたしはこっちの顔が好き!」と小さな子供から大人まで楽しんでくれている様子を拝見して、とても嬉しく温かい気持ちになりました。
顔の力ってすごいですね。
●本書が初めての著作。
ひかりのくに
『にらめっこだいこん』
わびみよ・作・絵
定価1,078円(税込)