日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

我が社の売れ筋 ヒットのひみつ36
「イチからつくる」シリーズ 農山漁村文化協会

(月刊「こどもの本」2022年11月号より)
「イチからつくる」シリーズ

子どももおとなもワクワクしてくる

関野吉晴ほか 編/中川洋典ほか 絵
2017年12月刊行開始

 毎日の食べもの、着るもの、文房具など、今は自分でつくらなくても手に入ります。これをイチからつくることで、見えてくるものがあるはず。そんな気づきや発見が生まれるのが「イチからつくる」シリーズで、現在、9冊まで出ています。

 このシリーズができたきっかけは、2016年公開のドキュメンタリー映画『カレーライスを一から作る』です。探検家の関野吉晴氏が武蔵野美術大学のゼミで行なった、文字通り、カレーライスを一からつくってみるという試みを記録した映画で、これをもとに子ども向けの本ができないか、という企画が生まれたのです。

 ちょうどこの頃、何か新しい絵本のシリーズをと考えていたところでしたので、1冊ではなくシリーズ化できないかという話になりました。そして最初に出たのが、『カレーライス』『チョコレート』『ワタの糸と布』の3冊で、このあとの『鉄』『プラスチック』から『あめ』『のり(接着剤)』など取り上げる分野は広がっています。

 モノづくりの工程を紹介する本はいろいろとありますが、このシリーズは実際に自分たちでイチからつくってみるところが他の本と違うかもしれません。『チョコレート』はカカオを、『ワタの糸と布』はワタを育てるところから始めます。それぞれの原材料から、世界的な資源の流れや植民地支配の歴史などに気づくこともできるのです。

 第2集の『鉄』は海岸での砂鉄集めから始め、「たたら製鉄」を経て実際に包丁までつくってみました。第3集の『プラスチック』は、残念ながら家庭や学校で石油からつくるには無理があるためイチからはつくれませんでしたが、代わりに牛乳を原材料にしたカゼインプラスチックづくりを取り上げました。もともと農文協は工業分野とはあまり縁がなく、編集者自身も子どもと同じように本の編集過程で「イチから」学んでいます。

 現在、第4集の『コーラ』『ラーメン』『ガラス』の編集も進行中です。『ガラス』は編者の先生と相談し、海岸の砂からつくってみようということになりました。ただ、どこの海の砂がガラスづくりに適しているかわかりません。そこで、社内で呼びかけ、夏季休暇を利用してあちこちの海岸の砂を集めてもらいました。今、北海道から沖縄まで、全国の砂の入ったペットボトルが私のデスク周りに並んでいます。果たしてこれで本当にガラスができるのか、失敗したら本の発行時期が遅れるのではないかという恐れをいだきながら、でもワクワク感も抑えられずにいます。

(農山漁村文化協会 中田めぐみ)