日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『モナのとり』 水橋はな

(月刊「こどもの本」2022年11月号より)
水橋はなさん

「とり」がつなぐもの

「わたしは、みんなと おなじじゃない……。」この絵本の主人公、モナは、フランスに住む小学生です。放課後には踊りを習っていて、学校のともだちと遊ぶのもだいすき。だけど、「わたしには、くろい とりが ついている」と言うのです。

 モナは、家族といっしょに、戦争中の国から逃げてきました。家族は、フランスに住み続ける「けんり」を待っています。その「紙」が届けば、「とり」は、きっと飛んでいく……。「くろいとり」は、「けんり」を待つ間の難民の不安を、あらわしているのでしょう。

 戦争をしている国に戻されちゃったら、どうしよう。モナは、生まれた国をほとんど覚えていません。フランスの街が、もう「ふるさと」です。彼女がただ願うのは、ここに、ずっと、暮らすこと。光でいっぱいの、発表会の舞台で踊ること。おとうとが生まれたら、乳母車にのせて散歩することです。

 二〇一二年、留学中のパリの書店で、この絵本と出会いました。色の美しさと、少女の表情にまず惹かれたのだと思います。フランスの難民や移民を描いていることも、すぐにわかりました。

 モナの立場とわたしの立場は、異なっています。けれど、「くろいとり」が他人事だとは、どうしても思えませんでした。「とり」が、難民の不安とともに、生きる環境が安定しない不安、存在の根っこが揺さぶられるような感覚を、あらわしているからでしょうか。こどもの暮らしは、大人の事情でかんたんに変わり、失われてしまいます。だから、この不安を、もしかすると大人以上に感じやすいのかもしれません。「とり」は、こうして、モナの心とわたしたちの心を、つないでくれるような気がします。

 はじめて絵本を翻訳し、わたしにとってほんとうの「新刊」となりました。現実の「モナ」たちについて、それまで以上に調べ、知ろうとするようにもなりました。様々な形で「くろいとり」をかかえるこどもたちへ、届くよう願っています。

(みずはし・はな)●本書が初めての翻訳書。

『モナのとり』
新日本出版社
『モナのとり』
サンドラ・ポワロ=シェリフ・作/水橋はな・訳
定価1,760円(税込)