日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『おチビがうちにやってきた! ちなつが恋を予知!? 遊園地でハプニング!』 柴野理奈子

(月刊「こどもの本」2022年10月号より)
柴野理奈子さん

目に見えない価値

「おチビがうちにやってきた!」シリーズ(既刊5巻)は、平凡でなんのとりえもない(と自分では思っている)小学6年生の実咲が主人公です。でも実咲は、誰よりも心根が優しく、誠実で、輝くものを持っています。

 翻って私自身が小学生だった時のことを振り返ると、私は比較的、学校での評価は悪くない方でした。テストの数値、ピアノが弾けるか否かなどの目に見える特技……大人にとっての分かりやすい判断基準において、私が持っているものは、どちらかといえば高評価を得やすいものであったのでしょう。

 でも、ある時、自分が評価を得ているものがすべてただの表面的なものにすぎず、本質的な「人間力」においては自分には誇れるものがなんにもないということに気づきました。それまで自分を支えていた自信や誇りが足元からくずれ、絶望的な気分になりました。

 こんなに中身がからっぽの自分が、なぜずっと鼻高々といられたのか……。それまでの自分が恥ずかしくて情けなくて、消えてしまいたくなりました。

『おチビがうちにやってきた!』の第1巻で、実咲に対して、幼馴染みの颯太が「(実咲の良さは)点数に出ないから見えにくいだけで、もし数値化できるとすればぶっちぎりの一位だ」という言葉をかける場面があります。

 優しさや正しさ、強さといった人間力は、点数が出ないから目に見えにくいし、自分に備わっていないことに気づきにくいものです。でも、それでもきちんと心に輝きを持っていられる実咲も、それに気づいてあげられる颯太も、私の憧れです。

 人間力に欠けている私が実咲のような人物を描こうとするのは大きな挑戦であり、原稿に向かっていると己の薄っぺらさをつきつけられて、のたうち回りたくなるのですが、自分の愚かな部分から目をそらさずに、人としての真の価値はどこにあるのかを実咲に教えてもらいながら探りたいと思います。

 読んでくれた子たちとともに私も実咲も成長していける、そんなシリーズにしていけるよう精進してまいります。

(しばの・りなこ)●既刊に「放課後、きみがピアノをひいていたから」シリーズ(全8巻)、『思い出とひきかえに、君を』など。

『おチビがうちにやってきた! ちなつが恋を予知!? 遊園地でハプニング!』
集英社
『おチビがうちにやってきた! ちなつが恋を予知!? 遊園地でハプニング!』
柴野理奈子・作/福きつね・絵
定価704円(税込)