そっと背中を押すように
子どもの頃、祖父母の家の2階にいく途中に船の絵が飾られていました。なぜだかその船のなかにたくさんのおばけがいるような気がして怖くて階段を上ることができませんでした。でも少し大きくなると、いつのまにかすいすい階段を上って2階にいけるようになりました。船の中におばけがいないことも解り、後から思うとなぜあの絵があんなに怖かったんだろう? と不思議に思う程でした。
思い込みや想像力で自分で勝手に壁を作って越えられないと思ってしまうことってあるよなあ。という、この絵本はそんな些細な思い出から始まりました。大人になった今でも同じようなことがよくあります。やる前にあれこれ考えすぎて、難しく失敗してしまうのではないかと不安になって何日も悩んでみたものの、いざ思い切ってやってみると意外とあっさり上手くいって、そんなに悩むことなかったと思ったり。相手が気を悪くしているのではないかと気に病み、いざあやまると全然気にしていなかったり。(逆にこちらの何気ない一言が相手を傷つけてしまっていることもあるので、そちらも気をつけないといけませんが)
そんな子どもにも大人にもある気持ちのお話を編集者さんと一緒に、肉付けする、というよりは、解りやすく、削ぎ落とすような感覚で作り上げていきました。お話ができて、さあ絵を描くぞ。という時、なかなか描き始めることができません。「上手くいかなくて苦労するぞ」と思うと始めの1歩が踏み出せないのです。
「これじゃあ絵本の中のめぐちゃんと一緒じゃないか」と自分のことながら苦笑してしまいました。なんとか描き終えた今も同じようなことばかりで、「ごめんねゆきのバスを描いた自分がそんなことでどうする」といつのまにか背中を押してくれる絵本になっていました。
この絵本の中に出てくるくまのように、誰かの背中をそっと押す絵本に少しでもなれたら嬉しいなと思います。
●既刊に『あめかっぱ』。
文溪堂
『ごめんねゆきのバス』
むらかみさおり・作
定価1,540円(税込)