
キリンちゃんの育ての親は?
あれはいつのことだったか。漢詩界の泰斗にして最長老が中国の詩について語る、というラジオ番組があったのです。
ある日、先生は、詩に登場した『麒麟』について話してくださいました。
「麒麟は王が仁政を行う時に現れる神聖な生き物と言われています」
なるほど、めでたいケモノなのね。
「麒麟はいかなる生命も傷つけないと言われています」
そうか、やさしいケモノなんだ。
「また、孔子は、麒麟が平和とはほど遠い時代に現れたので人々は気味悪がって捨ててしまった、と書いています」
えー、捨てられちゃったの~。
ちょっとびっくり。それまで私は、神社仏閣の彫刻や例のビールのラベルなどから、なんかスゴい超能力を持っていて人間が触れるのもはばかられるような超越生物を想像していたのですね。
そんな簡単に捕まって捨てられちゃうなんて……。聖なる吉祥獣のイメージが、いきなりフツーの動物になってしまった。
「そこ、驚くポイントじゃないから。孔子が言いたいのはそこじゃないから」と先生からクレームがきそうですが、以来、私のなかで、麒麟は『キリンちゃん』になってしまったのです。
キリンちゃんって雑草も踏めないらしいし、虫とか出てきたらどうなっちゃうのかな。きゃっと叫んで卒倒しちゃったり、なんて妄想がふくらむふくらむ。
おっとりなキリンちゃんがこっちの世界で暮らすのは大変そう。いやその前に、キリンちゃんが人間界でやっていけるのかが心配だ。繊細なキリンちゃんに、生物界で一番ヘヴィと言われる人間とやっていける根性はあるのか。でも、平和の使者には是非こちらに来て活躍してもらいたい。そのためにはやはり、人間を好きになってもらうしかないでしょう。好きになってもらうには、小さい時に愛情こめて育てるのが一番でしょう。では、だれがキリンちゃんを育てたらいい? というわけで、このお話が生まれたのです。
(はながた・みつる)●既刊に『ベッシーによろしく』『ぎりぎりトライアングル』『サイテーなあいつ』など。
学研マーケティング
『キリンちゃん』
花形みつる・作
久本直子・絵
本体1,300円