
出会いの助っ人になれますように……
平岡 敦ほか 訳/ヨシタケシンスケ 絵
2016年12月〜刊行
「五冊だけで終わっちゃうのはもったいないですよ」
この声の主は、とある新聞記者さん。「世界ショートセレクション」を五作出したところでまとめて紹介してくださることになり、確認の電話を受けていた時のことだ。それまでどちらかといえば淡々としていたその口調が、一瞬熱を帯びたように感じ、こちらのからだのまんなかあたりがかっと熱くなったことをよく覚えている。
……世に次々と誕生する新刊。魅力的なその洪水のなかで、ひとひとりが気に入ってつきあえる作品はいくつあるのだろう。読んでみなけりゃわからない。そのとおり……なのだが、やみくもに挑むのはなかなかに難儀だ。
そこで出版社ができること。それも短編と称される作品群もだいじに刊行してきた理論社ができること。そのひとつに、この「世界ショートセレクション」がなれていたらいいな、と思う。一冊のなかに、その作家のいろいろな顔がひそんでいる本シリーズが。
シリーズをスタートするときに、自分のノートにでかでかと書いた言葉がある。
「あの作家との、出会いの一冊に、きっとなる」
もちろん、短編がすべて長編より敷居が低いわけでも簡単に読めるわけでもないのだが、作家との相性をさぐるひとつのアプローチにはなるかもしれない。
本シリーズの訳はすべて新訳。それぞれの訳者さんが、今出版するからこその姿勢で、一作一作に向きあい、なまものの言葉で紡いでくださっている。だからこそ、百年前に書かれた名作であろうと、あたかも新作のようなフレッシュさがあふれる。
好評を得ているもうひとつの大きな要素は、そのたたずまいだろうか。「本棚に揃っていくのが楽しみ」「ジャケ買いしている」という声も多くいただく。これはシリーズすべての絵を担ってくださっている水先案内人・ヨシタケシンスケさんの絵によるところが大きい。その喜怒哀楽の抱き方に、わたしの膝はうたれすぎて嬉しい痛みで真っ赤っ赤だ。さらにアルビレオさんのデザインの力の加勢!
「わからない言葉もあるけどおもしろいから読んじゃう」という小学生から、「人生で一度も読まずに終わるだろうと思っていた作家の作品を読めた!」という大きいひとたちまで、読者の層は広い。
おかげさまで五冊で終わらずに、今や二十作をむかえた。これからも、今を生きるひとたちと、作家との、作品との、出会いの助っ人に本シリーズがなれますように……