日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『あんまりすてきだったから』 くどうれいん

(月刊「こどもの本」2022年8月号より)
くどうれいんさん

手紙はとどく

「すてき! と思った人にはお手紙を出しましょう」というのが幼いわたしへの母の口癖でした。好きなテレビ番組やお菓子メーカー、もちろん家族にも。わたしはせっせとお手紙を書きました。お手紙と言ってもへたくそな絵とちぐはぐのひらがなで、便箋もキャラクターの描かれたメモ用紙だったり、ぶ厚いチラシの裏だったり、折り目を付けた後の折り紙の白いところだったり。必ずしもそれは封筒に入ったお手紙ではありませんでしたが、書いた人が心を込めて書いたものは、すべて立派なお手紙だと今でも思います。

 母と一緒にみやざきひろかずさんにお手紙を出したのは幼い頃のことでした。読み聞かせてもらう絵本「ワニくん」シリーズのワニくんの、どこかぼんやりとしたやさしい顔がとても好きだったのです。みやざきさんからは丁寧なお返事がきました。絵の雰囲気そのままの、とってもやさしい文字でした。それから20年以上経ち、ひょんなことからわたしは作家になりました。もし絵本を出せる日が来たら、絶対にみやざきさんと一緒にやってみたい、と思っていた夢がかないました。

 一般人も芸能人も、口の数は同じくひとつで、有名だからって口の大きさが違うわけではありません。人がだれかに思いをとどけるとき、だれかの思いを受け取るとき、それは必ず一対一です。だれかを傷つける言葉はいつも画面上のゴシック体だけれど、お手紙の手書きの文字にはその人のこころからの気持ちがこもるものだと信じています。指先ひとつで気持ちを伝えられるいまだからこそ、どんな便箋にしようか悩みながらお手紙を出すことのうれしさが、こどもにも大人にも伝わる絵本を作れたらと思いました。

 すてき! と思ったらお手紙を書く。それはとっても豊かなことです。お返事がもらえなかったとしても、きっとその言葉はその先のあなたにとどきます。お手紙を書くとき、わたしたちはほんとうは、手紙の先のだれかではなく、いちばんには自分のことを救っているのではないかと思うのです。

●既刊に創作童話『プンスカジャム』、中編小説『氷柱の声』、第一歌集『水中で口笛』など。

『あんまりすてきだったから』
ほるぷ出版
『あんまりすてきだったから』
くどうれいん・さく/みやざきひろかず・え
定価1,540円(税込)