日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『なかよくなれるかな』 今井福子

(月刊「こどもの本」2022年8月号より)
今井福子さん

心に蘇る星屑のような言葉たち

 この作品は、六年生のお兄さんと、一年生のれな、友達のたけちゃんの、心の触れ合いと成長を描いた物語です。

 ウサギが好きで、飼育小屋に行きたい、れな。でもそこには、怒ったり、怒鳴ったりしている飼育係の怖いお兄さんがいます。一人では行けないれなが、ある日友達のたけちゃんを誘うと、たけちゃんの口からお兄さんの意外な事実を告げられます。

 それまで、お兄さんに対する学校の皆の噂や、悪い部分だけを見てきた客観的なれなの視点が、少しずつ変化していき、れな自身の視点でお兄さんを観察し、れな自身の心でお兄さんを捉え、分析していくようになります。そしてある日、決定的な出来事が……。

 子供の頃、両親や祖父母から聞いた言葉の数々。その時は分からなかったり、忘れていたものが、大人になって何かの拍子に、キラキラと光を放ちながら心の中に蘇ることがあります。

 この物語は、その中の一つ、

『人を見るときは、その人がまとっているもの、身分、財産など、すべてを剥ぎ取り、心だけを取り出して、その人を自分自身の目で見て判断しなさい』

 と言った父の言葉が軸になっています。

 人を外見や上辺だけで判断し、その人の真実をきちんと理解しないままに、人から人に間違った情報を伝える怖さ。

 確信のないものや、伝える側の私情が入り混じって、人を傷つけてしまうことを防ぐためにも、自分自身の目で見て、自分自身の心で判断できる力を身に付けてほしい……そんな願いを込めて書きました。

 どうせ分からないからとか、まだ理解できないからと、伝えるのをあきらめるのではなく、子供たちの頭や心に星屑のように引っかかった言葉が、いつか大人になった時に、キラッと光って蘇ってくれることを信じて、これからも子供の心に届く作品を書いていけたらと思っています。

(いまい・ふくこ)●既刊に『友だちをやめた二人』『止まったままの時計』など。

『なかよくなれるかな』
文研出版
『なかよくなれるかな』
今井福子・作/いつか・絵
定価1,320円(税込)