
プチッと、皮膚を破って
釣竿か絵筆か、というくらいわかりやすい私のほぼ日常。どうしたって釣りたい魚があり、出会いたい自然があり、事情の許す限り、国内外問わず、出かけてきた。人間と自然の境界線の向こう側に見え隠れしているあやしい世界へと。
しかし、コロナ禍においては、なかなかそうもいかず。日常のスイッチのオン、オフが見つからないまま、ひとまず、住んでいる東京都下の町周辺を自転車で、くまなく散策したりした。
知らなかった小川には、クレソンが自生し、小魚がきらめき、カルガモが泳ぐ。そこに響く、網をもった子どもたちの歓声。いいなあ。ならば我もと、このおじさん、流れに足を入れたそのとたん、プチッと、体の中にたまっていたザワザワが皮膚を破って出てきたのだった。あれあれ!
自然豊かな場所だけでなく、都会にも、人と一緒に営まれる自然の命がある。このザワザワを表現するための、新しい扉を開けてみたくなった。絵本ではなくて、小説。自然と子どもたちの物語。
行き先も定まらないまま書きはじめてみれば、どんどんと空の雲が流れる日もあれば、しとしとと停滞前線の日もあった。ただ、文字で描き出すリアルな肌感覚がとてもとても楽しかった。
この物語に特定の舞台はないが、生まれ育った岐阜県の故郷を思いつつ、多くの人々に馴染みのある、田んぼとつながる水の風景の中に物語を置いた。
子どもたちには、毎日が、小さな大冒険。
宇宙、地球、動物、植物、昆虫、そして人、たくさんのたくさんの命が集う自然。その関わりの中で、スポンジのようにありとあらゆることを吸収しながら、尊い何かが培われていく。そんな日々を過ごす、物語の少年たちからの
現役の子どもたちにはもちろん、かつて冒険家だった大人たちにも読んでほしい。潜んでいる全身のセンサーにスイッチが入って、きっと何かがザワザワと……。
(むらかみ・やすなり)●既刊に『まっている。』(作・絵)、『うーんうん うんちちゃん』『はやくしなさい!』(共に絵)など。
徳間書店
『黄色い竜』
村上康成・著
定価1,870円(税込)