日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『おんぷちゃんとねこ』 とよたかずひこ

(月刊「こどもの本」2022年7月号より)
とよたかずひこさん

くるりん ぱっ! おんぷちゃん登場

 出版社も普通の企業であるから人事異動もある。『やまのおふろやさん』を第一弾として、「ぽかぽかおふろシリーズ」を立ち上げた担当編集者が代わった。気心も知れ、長年、一緒にやってきたので残念だったが致しかたない。そのかわり、引き継ぎをしっかりしてくれたのであろう、後任の編集者とも何の違和感もなくシリーズを続行できている。ありがたいことだ。

 その彼とも三作創ったころだろうか、再校の校正をしながらポロッと言ってきた。「とよたさん、音楽をからめた絵本を創ってみませんか」

 氏は『ねこのピート』の訳者、そして音楽家でもある大友剛さんも担当していて、イベントでは、編集者でありながらギタリストとして出演しセッションしている。多才な人だ。

〝絵本に音楽を〟思いもよらぬ要請だった。そして自分がやったことのないジャンルだった。何か一瞬のうちに、髪型が音符マークの主人公の像が浮かんだ。キャラクターが立ち上がるとお話が創りやすくなる。

 楽器は笛にしよう。おんぷちゃんとふえ、だけでは表紙としてはさびしい。うーむ、脇役には何をもってこよう。ネコが登場する傑作絵本は、他の作家がたくさん描いている。なるべく避けたいなあと思いつつ、耳になじみある鳴き声はやっぱりネコだ。

『おんぷちゃんとねこ』というタイトルで、笛を吹いている主人公とネコの姿を表紙絵として描いた。それを仕事場の壁に貼り付けた。

 それから一か月、毎日眺めているうちに、彼らが動きだした。一気にダミーを作り、氏に提出した。OKの返事があった。と同時にまた難題をふってきた。「販売時期を勘案して夏バージョンでもう一作創ってくれませんか?」

 これ、シリーズになるかもしれないという編集者の勘なのであろう。それを受けて、次の楽器は太鼓にした。

『おんぷちゃんとたいこ』、そのものズバリだが、前作とタイトルの統一感がない。表紙に描いてしまうとネタバレになってしまう脇役の動物がいるのだ。シリーズ制作の肝要はあまり「しばり」をかけないことだと思う。

●既刊に『でんしゃにのって』『どんどこももんちゃん』『バルボンさんのおでかけ』など。

『おんぷちゃんとねこ』
ひさかたチャイルド
『おんぷちゃんとねこ』
とよたかずひこ・作
定価1,210円(税込)