日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『あかいてぶくろ』 林 木林

(月刊「こどもの本」2022年6月号より)
林 木林さん

それぞれの幸せ

「幸せ」にはいろんな形があって、決して型にはまるものではない。ちっとも幸せそうに見えなくたって本人にとっては幸せということだってある。きっとこの世界には、星の数ほどのそれぞれの幸せが息づいているはず……。それは、以前から私がひそかに胸に抱いていた思いです。いつか絵本のテーマにできたらと考えていました。そうして生まれてきたのが、この絵本『あかいてぶくろ』の物語です。

 見た目にも愛らしいペアである手袋は、「それぞれの幸せ」というテーマを物語るのに、まさにぴったりのアイテムだとビビッときました。さらに、白い雪景色に映えるのは赤い色。鮮やかにメッセージを伝えてくれるようにと決めました。

 肌寒さを感じる季節になると私は、ニットの小物が無性に恋しくなってきます。帽子、マフラー、手袋、ソックス……。何年も使っているお気に入りたち。中でも、手袋とソックスは、右と左のどちらか片方だけに穴があいたり、片方だけをなくしてしまったり、なんてことが結構あるものです。瓜二つの右と左なのに、片方だけがなんだか不憫に思えてきます。

『あかいてぶくろ』のお話の中では、なくしてしまった片方の手袋が森の動物たちに大切にされ、愛され、幸せになっていきます。それは、手袋として味わう本来の幸せではなく、自ら望んだ幸せでもありません。けれどそれは、予期せぬドラマが起きたからこそ、たどり着くことのできた、かけがえのない幸せの形です。

 私はこれまでに何度か片方の手袋をなくしました。このお話は、その片方たちに捧げたい祈りでもあります。あの時の片方の手袋が、どこかで幸せになってくれていたら……、いつもそう祈らずにはいられませんでした。

 この絵本がどこかで、幸せの形について思いをはせるきっかけのひとつになってくれることを願っています。寒い冬、心をそっと包む絵本であれば嬉しいです。素朴で、ほっこり温かい、手編みの赤い手袋のように。

(はやし・きりん)●既刊に『かめれおんせん』など、既訳書に『サンサロようふく店』『ココロノ オクノ トオクノ オト』など。

『あかいてぶくろ』
小峰書店
『あかいてぶくろ』
林 木林・文/岡田千晶・絵
定価1.760円(税込)