日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『クーちゃんとぎんがみちゃん ふたりの春夏秋冬』 北川佳奈

(月刊「こどもの本」2022年6月号より)
北川佳奈さん

そのままでいいよ

 昨年の夏の話ですが、飼っていたキリギリスが脱走しました。見つけたとき、彼(オスでした)はおやつ置き場にいました。

 いやな予感がして調べたところ、板チョコに歯形が! 銀紙はくいやぶられていました。さぞかしいいにおいがしたのでしょう、わかる、わかる。チョコレートが好きなのは、ひとも虫も同じようです(ダンゴムシもチョコレートを食べるそうですよ)。

 キリギリスにはやぶられてしまった銀紙ですが、昔からチョコレートを包み、守る存在です。板チョコのお話を書こうと決めたとき、いちばんの友だちは、銀紙をおいてほかにないと思いました。

 物語の主人公、板チョコのクーちゃんは、おしゃれが好きで気まぐれな性格。友だちのぎんがみちゃんは、実用的でさっぱりしたタイプ。ぜんぜんちがうふたりですが、お互いの家を行き来して、とてもなかよしです。

 春には道ばたの花や真昼の月をプレゼントしたり、夏には海水浴に出かけたり、秋にはクリのタルトでお茶をしたり、冬には商店街のがらがらをひきに行ったり。くらはしれいさんの愛らしいイラストが、ふたりの世界を生き生きと表現していて、本をひらくと、まるで昔からの友だちに再会したような気持ちになります。

 書くときに意識したのは、特別ではない毎日の暮らしをえがくこと。そして、「そのままでいい」とだれかに言ってもらえる幸福感をえがくことでした。

 海水浴へ出かけるのに、準備のいいクーちゃんと、ほとんど手ぶらのぎんがみちゃん。ぎんがみちゃんは、クーちゃんの荷物が多いのを「いいことだ」と感じて、じぶんも変わったほうがいいのかな、と思います。だけど、クーちゃんはぎんがみちゃんに、そのままでいいよ、と言ってくれるのです。

 会いたいひとに、なかなか会えない時間が続いています。なかよしの友だちの顔を思い浮かべながら読んでいただけたらうれしいです。

(きたがわ・かな)●既刊に『ぼくに色をくれた真っ黒な絵描き シャ・キ・ペシュ理容店のジョアン』、絵を担当した『かがり火』など。

『クーちゃんとぎんがみちゃん ふたりの春夏秋冬』
岩崎書店
『クーちゃんとぎんがみちゃん ふたりの春夏秋冬』
北川佳奈・作/くらはしれい・絵
定価1,210円(税込)