
自分と世界、そして他者を知る冒険へ
私、小学生の頃に学校で、掃除の時間におしっこを漏らしてしまったことがあるんです。自分でも混乱しましたし、育ち始めた自尊心がぺちゃんこになってしまうような出来事でした。
なぜか、「掃除の時間はトイレを使ってはいけない」と思っていたんですね。今考えると笑ってしまうくらいおかしな理由ですが、頑なにそう思い込んでいた節がありました。当時はそういう気持ちを言葉にできず、誰かに相談することもできませんでした。そして、キタナイものは怖い! という気持ちから、外出先のトイレではいつも足がすくむ子どもだったのです。
大学で地理学を専攻したのは、そうした自分の殻を破りたくて、全く知らない世界に身を投じ、想像したこともない暮らしや人生に触れてみたいと思ったからです。自分への荒療治のつもりでしたが、地理学はとても面白かったですね。日本や世界を歩き、過去の暮らしに触れたりすると、自分が「当たり前」だと思っていたことが通用しないことばかり。肩の力がふっと抜けていきました。
清濁入り混じる混沌とした世界を支える絶妙なバランスに魅せられるようにもなりました。なかでも「食べること」と「出すこと」のつながりは、そうした世界の複雑さと面白さを知る絶好のフィールドだと思っています。『うんこでつながる世界とわたし』(全3巻)は、そのような複雑で多様な世界と人間との関わりを知り、面白がることで、先入観や思い込みから自由になれたら、という思いでつくりました。
子どもたちにとって「うんこ」は、「自分」であり、最初に出会う「他者」でもあります。石井聖岳さんの躍動感のある絵が、自分と世界、そして他者を知る冒険へと子どもたちを導き、未来を考える扉を開いてくれます。私自身も、小学生の私にこの絵本を手渡し、「うんこやおしっこをするって、とっても大切なことだから、何よりも優先していいんだよ」と言ってあげたいと思います。
(ゆざわ・のりこ)●既刊に『ウンコはどこから来て、どこへ行くのか』『7袋のポテトチップス』『胃袋の近代』など。
農山漁村文化協会
『うんこでつながる世界とわたし』(全3巻)
湯澤規子・編 石井聖岳・絵
各定価2,750円(税込)