日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

我が社の売れ筋 ヒットのひみつ31
『たべてあげる』 教育画劇

(月刊「こどもの本」2022年4月号より)
『たべてあげる』

「閲覧注意!」のコワ〜い絵本

ふくべあきひろ ぶん/おおのこうへい え
2011年11月刊行

 ピーマンが苦手なりょうたくんの前に、ある日、自分そっくりの小さなりょうたくんが現れて、苦手なものをどんどん食べてくれるようになりました。これはいいや!と調子よく食べてもらっているうちに、いつのまにか大変なことになっていく……。『たべてあげる』は、そんな、〝トラウマ級に怖い(?)〟といわれる絵本です。

 刊行当初から、コワすぎる、面白いと、賛否両方の反響があり、話題にもなって、テレビやネットニュースなどのメディアでも何度か紹介していただきました。SNSでも思いがけず大きな反響になるなど、広く知ってもらう機会に恵まれてきた作品です。

 園や学校、夏の怖い絵本イベントなどの読み聞かせの現場や、ずっと平積みしてくださる書店さんなどに支えられ、2011年の刊行から10年、版を重ねて、累計10万部を超えたところです。

 いちばんの魅力はといえばやはり、作家のお二人が、こどもには怖い存在があっていいと、従来の枠を気にせず思い切って作ってくださったからこそのインパクトに尽きるでしょうか。迫りくる大きな手の影、気づかずにニセモノのりょうたくんを褒める口元までしか見えないお母さん……、予想を超える悪夢のような展開が、読んでくれる大人までをちょっとドキドキさせて、それが、こどもたちにとっては、大いにユニークな絵本体験になっているのかもしれません。

 また、見返しのポップな可愛さや、ニセモノのりょうたくんの肘のシワシワなど、あちこちに楽しい見どころがあり、いろんな味が味わえるというところにも人気の秘密があるのかなと感じます。りょうたくんの真剣で切実な表情は大人にとっても人ごとでない面白さ。帯に明るく入っている「閲覧注意!」の文言も、この本らしさを感じるところです。作者のプロフィール欄には、それぞれキライな食べ物が表明されていて(ふくべさんはネギ、おおのさんはミョウガ)、たとえスキキライがあっても、ちゃんと大人になれることもわかります。

 絵本のラストのページでは、最悪の事態は免れているものの、りょうたくんの状況はまだまだ切実です。りょうたくんがここにいることを知っているのは、世界で自分一人だけ。りょうたくんは自分を取り戻すために、なんとかしなければならないのです! ……というわけで、現在企画中のコワーい(?)続編も是非、楽しみにしていただけたらと思います。

(教育画劇 三原千佳)