
たどり着けない場所に連れていってくれた主人公
『たんていくまたろう』は、一人暮らしのクマのぬいぐるみが探偵をはじめるお話です。
主人公の「くまたろう」というのは実際にわが家にいる、ぬいぐるみの名前からとりました。こどものときにサンタクロースにもらったもので、赤い長靴にはいっていました。
わたしはこれまで絵をたくさん描いてきました。読書は好きでしたが、胸をはって「読書家です」と言えるほどではありません。ですので、物語を書くなんていうことは身のほど知らずというか、恥ずかしいような気持ちがずっとありました。
けれどもときどき、自分の中でお話が生まれることがありました。おばさんになり、ちょっとずうずうしくなったおかげで「お話を作りたい」という気持ちに目を背けず、大切に育てることができました。
みなさんと同じように、わたしにも「この作品が存在してくれて良かった!」と思う本があります。ミステリーでは、アガサ・クリスティのポアロやミス・マープル、赤川次郎の三毛猫ホームズはくりかえし読みました。謎解きのおもしろさというより、暮らしや文化、食べ物の描写があったり、おなじみのメンバー同士のほっとするやりとりが書かれていたりするお話が好きです。それと、頼もしい主人公がきっと問題を解決してくれるという安心感。
この『たんていくまたろう』にもこだわりの朝食やコーヒーを淹れる場面、外国製のお菓子なんかが出てきます。また、もうひとりの登場人物である、うさぎくんとの、とぼけたやりとりも楽しく書きました。
本を作りはじめた最初のうちは、「わたしには完成させられないかもしれない」と自信がありませんでした。
けれど、くまたろうはどんどんと歩いていきました。そしてたどり着けないと思っていた場所へ連れていってくれました。
くまたろうは愉快で頼もしい主人公です。
●本書がデビュー作となる。
あかね書房
『たんていくまたろう』
さかまきゆか・作
定価1,320円(税込)