
「恐れと慎みの心」を育みたい
「泣く子はいねが〜怠け者はいねが〜」
大みそかの夜、男鹿半島(秋田県)の家々を巡り歩くなまはげ。一年に一度、雪深い山から下りてきて災いをはらい、無病息災や豊作をもたらす守り神だと伝えられています。雄叫(おたけ)びをあげる怖いイメージがクローズアップされがちですが、神様としての存在を知ってほしい……そんな思いから生まれた企画でした。
なまはげの伝統行事は集落ごとに伝承されており、お面の形や装束なども違います。師走になると、集落独自のしきたりを知る年長者と、なまはげに扮(ふん)する若手が一緒に準備を進めます。なまはげを怖がって泣いていた子どもが、大人になってなまはげを演じる側になる……まさに地域に根ざした伝承文化と言えます。
二〇一八年十一月、「男鹿のナマハゲ」はユネスコの無形文化遺産に選ばれました。けれども、過疎化や少子高齢化に伴って担い手が少なくなり、迎え入れる家も減っています。住民の理解と協力を得ながら、郷土の伝統文化をどのように子どもたちに教えていくかが、大きな課題となっています。
未来の担い手の子どもたちには、故郷の伝統行事や文化に誇りを持ち、「なまはげ」を大事に継承していってほしいもの。この絵本の物語は、地域に伝わる伝説を元にしたものですが、こんなストーリーで語り継がれてほしいという私の望みも込めました。この物語が、恐れと慎みの心を育むことにつながればと願っています。
物語は、「なまはげさん、どうか、来年もまた来てください」という言葉で締めくくりました。いつの日か、この言葉の真の意味を理解し、自分たちの守り神に対して畏敬の念を抱くことに行き着いてくれたらと願わずにはいられません。
絵本作家の早川純子さんとは、一緒に男鹿半島を回り、なまはげ伝説ゆかりの「999段の石段」も上りました。木版画で描かれた「なまはげ」の世界は迫力たっぷりでありながらも、ほのぼのとした雰囲気があふれています。
(いけだ・まきこ)●既刊に『クニマスは生きていた!』『サケと「浅井っ子」のふるさと物語』『自由への道』など。
汐文社
『なまはげ』
池田まき子・文/早川純子・絵
定価1,980円(税込)