日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『保健室経由、かねやま本館。4』 松素めぐり

(月刊「こどもの本」2022年3月号より)
松素めぐりさん

美しい景色はエールだと思う

 昨年、大切な人たちが相次いで病で亡くなりました。コロナ禍でお見舞いもできないままのお別れ。現実を受け入れられず、深い悲しみの沼に、ずぶずぶと引きずりこまれるようでした。

 そんなある朝、泣きすぎて腫れ上がった瞼をこすりながら外に出て、近所の川沿いを歩いてみると、朝日が川面に反射して、水草がきらきら輝いていました。ざざっと風がふいて、木漏れ日が、足元を優しく照らして —— 。文句のつけようがないくらい「美しい朝」が、ただそこにありました。

 そのとき、私にはそれがどうしても、先に旅立った人たちからの、「エール」のように感じたのです。

「大丈夫! ちゃんと見てるよー!」

「ほら、顔、上げて。世界は綺麗でしょう? さあ、歩きなさい」

 そんな風に、背中を押されているような気がしてなりません。まわりを見渡すと、なんてことのない近所の風景が、どこを切り取っても美しく胸に迫ります。道沿いに揺れている野草。朝日で光るアパートの白い壁。仲良く水面を横切っていく、鴨の親子……。

「感傷的。ただの思いこみ」そう言われるかもしれません。でも、私はそのとき決めたのです。思いこみでもいい。これから私は、日常で美しいものを見つけたら、それは全部、「自分へのエール」だと思うことにしよう! って。

 その瞬間、『保健室経由、かねやま本館。4』のストーリーが浮かびました。亡くなったおじいちゃんが、死後の世界から、孫に大切な思いを伝えるために奮闘する。そんな映像が、透明な朝の空気のなか、脳内に流れこんできました。暗闇に迷いこんでしまったような日々にも、絶対に光はある。だって、こんなに世界は美しいんだから ——。

 子どもたちが、闇を切り裂いて、光へと向かっていく。そんなイメージを抱きながら、あの朝、胸いっぱいに感じた思いを、物語に託しました。読後、日常のありふれた風景が輝いて見えますように! 祈りと願いをこめて。

(まつもと・めぐり)●同シリーズが初の著作。

『保健室経由、かねやま本館。4』
講談社
『保健室経由、かねやま本館。4』
松素めぐり・著
定価1,540円(税込)