
美しい景色はエールだと思う
昨年、大切な人たちが相次いで病で亡くなりました。コロナ禍でお見舞いもできないままのお別れ。現実を受け入れられず、深い悲しみの沼に、ずぶずぶと引きずりこまれるようでした。
そんなある朝、泣きすぎて腫れ上がった瞼をこすりながら外に出て、近所の川沿いを歩いてみると、朝日が川面に反射して、水草がきらきら輝いていました。ざざっと風がふいて、木漏れ日が、足元を優しく照らして —— 。文句のつけようがないくらい「美しい朝」が、ただそこにありました。
そのとき、私にはそれがどうしても、先に旅立った人たちからの、「エール」のように感じたのです。
「大丈夫! ちゃんと見てるよー!」
「ほら、顔、上げて。世界は綺麗でしょう? さあ、歩きなさい」
そんな風に、背中を押されているような気がしてなりません。まわりを見渡すと、なんてことのない近所の風景が、どこを切り取っても美しく胸に迫ります。道沿いに揺れている野草。朝日で光るアパートの白い壁。仲良く水面を横切っていく、鴨の親子……。
「感傷的。ただの思いこみ」そう言われるかもしれません。でも、私はそのとき決めたのです。思いこみでもいい。これから私は、日常で美しいものを見つけたら、それは全部、「自分へのエール」だと思うことにしよう! って。
その瞬間、『保健室経由、かねやま本館。4』のストーリーが浮かびました。亡くなったおじいちゃんが、死後の世界から、孫に大切な思いを伝えるために奮闘する。そんな映像が、透明な朝の空気のなか、脳内に流れこんできました。暗闇に迷いこんでしまったような日々にも、絶対に光はある。だって、こんなに世界は美しいんだから ——。
子どもたちが、闇を切り裂いて、光へと向かっていく。そんなイメージを抱きながら、あの朝、胸いっぱいに感じた思いを、物語に託しました。読後、日常のありふれた風景が輝いて見えますように! 祈りと願いをこめて。
(まつもと・めぐり)●同シリーズが初の著作。
講談社
『保健室経由、かねやま本館。4』
松素めぐり・著
定価1,540円(税込)