日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『さむがりやのスティーナ』 朱位昌併

(月刊「こどもの本」2022年2月号より)
朱位昌併さん

アイスランドのさむがりや

 アイスランドに住んでいると、本書の主人公、さむがりやの女の子スティーナがあらゆる手段を尽くして寒さから身を守る様子は、大げさには感じられません。たしかに、長く暗い冬のアイスランドで心地よく過ごすなら、地熱を利用した温水パイプで暖まった室内にこもるのが一番でしょう。

 ぬくぬくしながらお気に入りの本を読んで、黙々と編み物をして、時々窓から夜空を見上げる。もし外に出たくなったら、ニット帽や手袋をつけ、マフラーを何周も巻いたりして、服の隙間に風が吹き込まないよう気を付けなければいけません。でないと、風に吹かれた途端、からだがガタガタ震えだしてしまいます。マイナス十度を下回らない気温よりも、刺すような冷たさの風の方が、はるかに厄介ですから。

 何年も冬と付き合ってきたスティーナの暮らし方には、北欧の島国で楽しく快適に冬を越すための知恵が隠れていますが、さらにすこしでも寒さを遠ざけようと、彼女はせっせと独自の工夫を凝らします。

 ページをめくると目に飛び込んでくる「つまさき ゆたんぽ」などの彼女の発明品を前に、「これ欲しい!」や「これやってみたい!」と思わず声に出すのは、きっと訳者だけではないでしょう。片っぽだけ残っているウールのミトンや、被らなくなったけれど捨てたくはないニット帽を自分でも生まれ変わらせたい、と強く思ったのは、ラニ・ヤマモト氏のイラストがあってこそでした。ひと癖あるスティーナの様子をありありと感じられるイラストは、テクストなしでも多くのことを伝えていますが、それでもやはり、ひとりでも多くの読者にアイスランドの一冬の物語を読んでいただきたいです。

 これまで大きな羽根布団にくるまって、ひとりで寒さに耐えていたスティーナが、ある吹雪の日、外で遊んでいた子どもたちと出会って外の世界の魅力に気づく。そんな本書を読み終えたら、今度はぜひワッフルと「せかいいち おいしい」スティーナのココアと一緒に、もう一度、お楽しみください。

写真:Marko Svart

(あかくら・しょうへい)●本書が初の著作。原著者の既刊に「かんがえるアルバート」シリーズ(全3巻、谷川俊太郎/訳)。

『さむがりやのスティーナ』
平凡社
『さむがりやのスティーナ』
ラニ・ヤマモト・作/朱位昌併・訳
定価1,980円(税込)