日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『輪切り図鑑クロスセクション 帆船軍艦』 宮坂宏美

(月刊「こどもの本」2021年8月号より)
宮坂宏美さん

緻密でユーモラス!

『帆船軍艦』の翻訳のご依頼をいただいたときは、専門用語がたくさん出てくる難しい本なのかなと思っていました。ところが、読んでみてびっくり。なにこれ、おもしろい!

 そこには、一八〇〇年ごろの帆船軍艦を操る八百人もの乗組員の暮らしが、緻密な絵と詳細な解説で生き生きとユーモラスに描かれていたのです。

 ウジ虫に気をつけながら食べるビスケット、息苦しくなるほど混み合う寝床、転落の危険をともなうマストでの仕事、手足の切断が基本の手術、日常的なむち打ちの刑。

 そんな過酷な毎日の中で、気に入らない士官を砲弾で転ばせたり、ゲームやけんかで賭けごとをしたりと、いろいろ気晴らしになることもしていたとわかりました。

 とくにおもしろかったのは、あちこちのページに出てくるトイレ事情です。トイレといっても単なる穴のあいた椅子で、下っ端が使うものはまわりから丸見え。ふきさらしなので、用を足しているときに大波にさらわれることもあります。それに比べて士官は、個室のトイレを使用。快適に用を足すということは、やはり重要な特権なのだとあらためて思いました。

 一九九〇年代にイギリスで発売されるや世界中で大人気となり、「断面図鑑」という分野のさきがけとなったこのシリーズは、当時、日本でもつぎつぎと複数の版元から発売されました。それが今回、原書の二十五周年記念版の刊行に合わせ、あすなろ書房からまとめて五冊、新訳で出ることになりました。

①ヨーロッパの古城

②帆船軍艦

③人体断面図鑑

④世界のふしぎ断面図鑑

⑤モノのできかた図鑑

「緻密でユーモラス」はどの巻にも共通。次作の『人体断面図鑑』では、体のしくみのほか、いま注目のワクチンや免疫についても解説しています。資料的価値も高いシリーズですので、ぜひそろえていただければ幸いです!

(みやさか・ひろみ)●既訳書に『ジュディ・モードはごきげんななめ』『ノエル先生としあわせのクーポン』など。

『輪切り図鑑クロスセクション 帆船軍艦』"
あすなろ書房
『輪切り図鑑クロスセクション 帆船軍艦』
スティーブン・ビースティー・画/リチャード・プラット・文/宮坂宏美・訳
定価2,200円(税込)