日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『なぜからはじまる体の科学 「見る」編』 挾間章博

(月刊「こどもの本」2021年7月号より)
挾間章博さん

必要な知識を必要十分に

 三十年前の生活を思い起こすと、病気について調べたければ、一家に一冊と言われた『家庭の医学』を調べるか、図書館に行って調べるしかありませんでした。医療に関わる知識は、当たり前のように専門家に任せる、それが常識でした。その常識を一変させたのが、Googleに代表されるインターネットの検索システムの登場です。その結果、だれでも、どこでも専門的な知識を得ることができるようになりました。現在、医療におけるパラダイム・シフトが進行中であることを実感します。これは、中世ヨーロッパにおいて、宗教家だけが聖書についての知識を独占していた状況が、活版印刷の登場により、人々が直接聖書を読めるようになり、宗教改革が起きたことに例えられるかもしれません。多くの人々が、基本的な体の仕組みや病気についての知識をもつようになる・・これが新しい時代といえます。

 体の仕組みや病気について、簡単に調べられるようになった一方で、インターネットで調べた情報は、ともすれば断片的な知識になってしまいます。必要な知識を必要十分に分かりやすく盛り込んだ書籍の重要性がより高まっていることを感じています。子供たちに向けた目や耳の仕組みや病気について紹介する書籍執筆の依頼が来たときに、断片的な知識の集積ではなく、一冊目を通すことによって、なんとなく目や耳のことが分かったと感じられるような本になれば、と思いました。また、この本を制作するにあたり、保育社の編集者の方々と多くの時間を費やして、このほうが分かりやすい、こんな工夫はどうだ、と相談しながら進めました。子供たちは、この文章を読んでどんなふうに感じるか・・固くなりがちな私の文章が、その指摘によって、より分かりやすいものに変わって行きました。

 新型コロナウイルス感染症の流行で、暗い話題の多い日々が続いていますが、「なぜからはじまる体の科学」シリーズに親しんだ子供たちが成長して、社会で活躍するようになる時代は、きっと明るいものになると信じています。

(はざま・あきひろ)●既刊に『なぜからはじまる体の科学 「聞く・話す」編』(垣野内 景との共著)。

『なぜからはじまる体の科学
保育社
『なぜからはじまる体の科学 「見る」編』
挾間章博・著
定価3,850円(税込)