日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『サステナブル・ビーチ』 小手鞠るい

(月刊「こどもの本」2021年7月号より)
小手鞠るいさん

ぞっとするほどきれいな汚染の「線」

 私の夫はハワイ州ホノルル生まれで、高校を卒業するまではホノルルで暮らしていました。夫が故郷に里帰りをするときには私も同行したり、一緒にオアフ島以外の島へも旅行に出かけたりしています。あれは、数年前のこと。夫の父は軍関係者だったので、軍人とその家族、親戚などが利用できる保養施設に滞在したことがありました。

 日本人がハネムーンで訪れるワイキキビーチからは想像もできないほど美しく、静かで、手つかずの自然が残されている素晴らしい海辺の別荘です。

 砂浜をふたりで散歩し始めてすぐに、私は「あっ、見て!」と、声を上げました。波打ち際に、波の残していった線が残っていたのですが、その線が実にさまざまな色の砂・・・つぶで描かれていて、本当にとてもきれいだったのです。

「わあ、きれいねぇ。このカラフルな砂つぶ」

 立ち止まって見とれている私に、夫は言いました。

「これは全部、プラスティックのごみのかけらだよ。僕が子どものころは、この線は、珊瑚礁や石のかけらでできていて、色は白や茶色のアースカラーだけだった……」

 びっくりしました。なんと、このカラフルな線は、海洋汚染の線だったのです! どこまでも続く汚染の線を眼前にして、私は呆然と立ち尽くすだけでした。寄せては返す波の音に包まれて、この大海原には、いったいどれほどのプラスティックのかけらが漂流しているのだろうかと思うと、ただただ無力感に苛さいなまれるばかりです。

 何か、私にできることがあるのではないか。これでもか、これでもかと、環境を破壊し続けてきた愚かな人間の快楽のためのビーチではなくて、地球上のすべての生き物たちが「生命を維持していくためのビーチ」を取り戻すために。私にできることがあるとすれば、それは書くことだろう。私の見たあの海を物語にして、子どもたちに届けたい。そんな思いをこめて書いたのが本書『サステナブル・ビーチ』です。

(こでまり・るい)●既刊に『ある晴れた夏の朝』『ぼくたちの緑の星』『平和の女神さまへ』など。

『サステナブル・ビーチ』"
さ・え・ら書房
『サステナブル・ビーチ』
小手鞠るい・作/カシワイ・絵
定価1,540円(税込)