
奮闘する「町のお医者さん」
下町の開業医の家に生まれ育ったので、以前からいつか、町の人の生活の支えになる、「町のお医者さん」の話を書きたいなと思っていました。
このお話を書くにあたり、現代の若い医師が、大きな資金援助もなく、開業医になるとしたら?と考えました。
信念と熱意がないと、医院の運営は厳しいだろうな。いいスタッフにも恵まれないとやっていけないよなあ。
などと考えているうちに、いろいろ不器用、オシャレ度ゼロだけど、勉強熱心で医療への情熱がアツくてまっすぐなクルミ先生のすがたが浮かびました。
同時に古い医院をそのまま受け継いだ、藤島クリニックのレトロな診察室、殺風景な待合室、草ぼうぼうの前庭などが映画を見ているみたいに現れました。はりきって開業したものの、厳しい現実に理想もへこんでいる感じです。
ここに、クルミ先生に負けないほどパワフルな女の子が飛びこんできたらどうなるだろう。
そこで生まれたのが、小学生ながら父子家庭の運営と、学校生活の両立バッチリの、自分が「まちがえないこと」には、自信があるモトキです。
この二人のやりとりは、考える前にぽんぽん、浮かんできました。
セリフを作って書いているというより、二人がヒートアップするのを、まあまあとなだめすかして、「はいはい、そちらの言い分も聞きましょう。はい、二人ともいったん落ち着こうか!」と、聞き取り調査している感じになりました(後であちこち削って、決まったページ数内におさめるのが大変でした)。
主人公がどっちも意地っ張りで、言いたいことがたくさんある場合、こういうことになるんだなあ、と、つくづく思いました。
日々、奮闘する「町のお医者さん」のすがた、医院をいっしょに支える医療スタッフ、家族のようすを、読者の皆さんに、楽しく読んでいただければ幸いです。
(れいじょう・ひろこ)●既刊に「若おかみは小学生!」シリーズ、『ハリネズミ乙女、はじめての恋』『おだんごねこさま』(文)など。
ポプラ社
『クルミ先生とまちがえたくないわたし』
令丈ヒロ子・作/雛川まつり・絵
定価1,430円(税込)