
日常から、不思議な世界へ
私は、散歩をするのが好きです。
『まんぷくよこちょう』は、私が東京を散歩していて見つけた景色が、もとになっています。
2012年頃に、東京都武蔵野市(吉祥寺)の「ハモニカ横丁」と、東京都葛飾区(立石)の「仲見世商店街」を、主に取材して描きました。
そこから、じっくり時間をかけて、この絵本が出来上がりました。
ラフを作っている間は、絵本として、形にできるかどうか、わからなかったのですが、商店街や横丁の雰囲気に、妙に魅かれるものがあり、どうしても描いてみたいという気持ちがありました。
横丁は、一歩入ると、狭いけれど、誰かの話し声が聞こえてくるような、人の気配があり、異世界とつながっていそうな感じもして、わくわくします。
古い商店の建物も、今までの時間が、染み込んでいるような佇まいで、親しみを感じます。
一人で歩いていても、買い物してもしなくても、自然とそこに溶け込んでしまう不思議な場所です。
なかなか絵本の形にまとまらず、試行錯誤しているうちに、日常の風景を描くことを大切にしながら、自分のもともと描きたいものも引き出されて、最後の不思議な存在たちのひみつのおまつりシーンが見えてきました。
誰も知らない隙間に、へんてこなものたちがいそうな感じがするというのは、私が横丁で感じた魅力だったのかもしれないなと思います。
「日常から、不思議な世界へ」という絵本をどこかで作りたい気持ちもあったので、描くことができて、よかったなあと思います。
私の祖父は下町の江戸っ子で、なじみのお店で買い物をするのが好きでした。そんなことも、少し思い浮かべながら描きました。
今、気軽に、人と触れ合ったり、外に出かけられない状況が続いていますが、いつでも迎えてくれるお店でのやりとりは、なにげなくて、うれしくて、ありがたいことだなあと感じます。
(なかざわ・くみこ)●既刊に『なぞなぞのみせ』(絵)『さがしえ12つき』『かあさんのまほうのかばん』(絵)など。
文溪堂
『まんぷくよこちょう』
なかざわくみこ・作・絵
定価1,650円(税込)