日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『うろおぼえ一家のおかいもの』 出口かずみ

(月刊「こどもの本」2021年4月号より)
出口かずみさん

うろおぼえなままでいい

 散歩をしていて、ふと木のうろを見つけた時でした。

「木のうろ、うろうろ、うろおぼえ……」などと唱え、そうだ、〝うろおぼえ〟という言葉を使った絵本が描きたい! と思ったのです。

 最初は自分が普段描いている、小人のおじいさんをイメージしたのですが、その時期、ちょうど自分にアヒルブームが来ていて、アヒルの動画を見ながら「アヒルっていつも楽しそう、きっと物事をうろおぼえでも楽しく生きられるはず! ましてや家族でわいわいうろおぼえだったらもっと楽しいかも!」と思い、登場人物をアヒルの家族に決めました。

 この一家は、たいていの事がうろおぼえでも、それはそれで楽しく生活しています。読む人によってはイライラするくらい忘れん坊で楽観的な家族です。それでいいと思っています。

 私自身が物事をすぐ忘れたり、ちゃんと理解していなかったりしても、「なるようになる」「まあいっか」と、色んな事をいい加減に流しながらでも大人になれる、東京で生きていけるという事を、身をもって証明出来ている気がするからです。その分多少周りの方々に迷惑をかけているのかもしれませんが……。

 現代は、わからない事があったらすぐにスマホを取り出して検索してしまえば解決するせいで、自分でしっかり覚えようとしない、うろおぼえっ子が増えているかもしれません。

 このうろおぼえ一家はスマホなど持たず、覚えてない事は覚えていないままで進んでいきます。

 道すがら出会う人の言う事もすぐに受け入れてしまうので、常に新しい情報としてその都度新鮮な感覚でもあります。

 これからも、うろおぼえな自分達に特に対策もとらず改善したりする事なく「うろおぼえなままでいい」と朗らかに生きていくのだと思います。

 私も色んな意味で、こんな「おめでたい」生活をして生きていけたらと思っています。

(でぐち・かずみ)●既刊に『おべんとういっしゅうかん』『ポテトむらのコロッケまつり』(絵)『たくはいび――ん』(絵)など。

『うろおぼえ一家のおかいもの』"
理論社
『うろおぼえ一家のおかいもの』
出口かずみ・作
定価1,430円(本体1,300円)