日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私がつくった本36
偕成社 千葉美香

(月刊「こどもの本」2012年7月号より)
アスペルガーの心 わたしもパズルのひとかけら/パニックダイジテン

『アスペルガーの心』
・1 わたしもパズルのひとかけら
・2 パニックダイジテン
フワリ/作・絵
2012年2月

 この本は、作者フワリちゃんのお母さんから偕成社宛てにきたメールが始まりでした。「アスペルガー症候群の娘が作品をいくつも書いています。普通学級で特別支援教育を受け、悩みながらものびやかに成長している娘の素直な思いを感じていただけるとうれしいです」小学生でアスペルガー症候群の告知を受けた本人が、そのとき描いた作品、ということで興味をもちました。送られてきたスケッチブックに描かれていたのは、ほぼ『アスペルガーの心1』そのままでした。心を掴まれました。信念をもったフワリちゃんの気持ちがぐっと迫ってくる、ユニークさもあわせもった作品。すぐお母さんに連絡をとり、他にもたくさんあるという作品をいくつか送っていただきました。もう一作「パニック」について、理論的に描かれた作品を整理して、二冊同時に出版させていただくことに決めました。

 初めてフワリちゃんにお会いしたときはとても緊張しました。まずは彼女に私を受け入れていただかなくては、本づくりはうまくいかないと思ったからです。どのような本にしたいか、フワリちゃんのご意見をうかがうことはもちろん、こちらの意向も理解していただくこと、新たに描いてほしい絵もありました。お母さんと話している様子を、ずっとうかがうように見ていたフワリちゃんでしたが、帰るときに、笑った私の似顔絵を描いてプレゼントしてくれたのです。一歩前進した気分になりました。

 この本をつくるにあたっては、デザイナーの高橋雅之さんの力も大きいものでした。同じアスペルガー症候群の子たちが読みやすいものになるようにと、お母さんのリサーチ、フワリちゃんの意見を尊重しました。書体の選び方に始まり、文字の組み方、文字色は黒だと白い紙とのコントラストが強すぎて読みにくい、文章のバックには少し色をしいてほしい、でないと読まずに飛ばしてしまいそう、またデザインに使う色はフワリちゃんの色のイメージがあるので参考にしてほしい(黄色→注意、オレンジ→楽しい、茶色→おもしろい、ピンク→愛情がこもったなど)。高橋さんは一つ一つに真摯に向き合ってこちらの意向を全て受け入れつつ、力を注いでくださいました。何度やり直しをしていただいたことか! 最後にフワリちゃんの絵を大胆に組み合わせてデザインされた表紙を見て、フワリちゃんは大喜び。それまでに高橋さんとの信頼関係が築かれていたからこそだと思いました。

 刊行後、現場の先生から「この本はバイブルになるね」「よく書いてくれました。ありがとう」、子ども達から「これはオレのことが書いてある!」「クラスにこういう子がいる」といった感想が届きました。〈いろんな子がいるんだよ〉アスペルガー症候群についての理解を深めてもらえたらうれしいです。