
「おいしくなーれ」シリーズ 誕生
新刊の話をするには、その前に2018年刊行の『バナナおいしくなーれ』(大日本図書)の話をしなくてはなりません。
バナナにおまじないをかけ皮をむくと、ウインナーやソフトクリームなどが出てくるという絵本ですが、最初のダミー(ひな形)を作ったのは刊行から十年前にさかのぼります。
当初は、チンパンジーがバナナをむくとマイクやバットなどが出てくる、という内容でした。編集者の當田マスミさんにアドバイスをいただきながら、ダミーの練り直しを重ねていたのですが、チンパンジーの絵が人間ぽくなってしまうので、動物園に通ったり、写真や動画で研究してデッサンを重ねました。そのうちにどんどんチンパンジーにのめり込み、学術書まで読み漁るように……。
ところが肝心のストーリー展開は、なかなか當田さんからのOKが出ません。「このままでは、うちでは出版は難しいかも。他の編集者さんに見ていただいてもいいですが…」と言われてしまったのです。せっかくここまで作ってきたので、引き続き担当していただくことにしたのですが、手直しのアイデアがとんと浮かばなくなり、そのままダミーを放置してしまいました。それから数年後、「果物の絵本を作りませんか」と、當田さんから声をかけていただき、「そうだ!」と、しまってあったバナナの絵本を引っ張り出したのです。
新たなダミーでは、チンパンジーを登場させず、バナナだけに焦点を絞りました。バナナをむいて驚いたり喜んだりするのは、絵本の中のチンパンジーではなく、絵本の前の読者でいいんだ、と思えたからです。チンパンジーにこだわり過ぎていた当時の自分では、そのことに気がつけませんでした。〝放置〟の功名ですね(笑)。
そうして、めでたくバナナの本が刊行され、「おいしくなーれ」はシリーズ化! そして今回は、「みかん」です。バナナの次にむくものと言ったら、これしかないでしょう! 中身の説明は、もう御無用ですね。
(やの・あけみ)●既刊に『バナナおいしくなーれ』『ギョギョギョつり』『ばんそうこう くださいな』など。
大日本図書
『みかんおいしくなーれ』
矢野アケミ/さく
本体1,200円