日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『万葉と令和をつなぐアキアカネ』 山口 進

(月刊「こどもの本」2021年1月号より)
山口 進さん

アキアカネが教えてくれた地球共生系

 僕の胸の中にはいつも疑問が溢れかえっている。「なぜ? どうして?」それを一つ一つ調べ、答えを探っていくのが楽しい。

 この新刊は「アキアカネの減少が続いている」と言う悲しいニュースから始まった。研究者が様々なデータをもとに原因を探ってきたが、はっきりとしたことはわからなかった。

 少年時代に見た赤トンボは美しい思い出として深く心に刻み込まれている。赤トンボが減ることは僕にとって日本の美しい風景と少年時代の思い出が消えてゆくようで寂しくて仕方がなかった。

 なぜ減り続けるのだろう。そう考え続けていた時に新潟県柏崎市の内山常蔵さんと出会った。

 常蔵さんは米作りをしていて、その田んぼからは毎年おびただしい数のアキアカネが羽化してくるのだ。

 アキアカネが復活するヒントを掴めるかもしれないと、僕は五年をかけて取材をした。

 答えはすぐに出た。米作りの方法だけではなく常蔵さんのちょっとした自然への思いやりがアキアカネが湧き出てくる田んぼを作ったのだ。

 日本は古い時代からトンボを敬愛し特別視してきた。記録は万葉の時代まで遡る。

 アキアカネの生態を探ると、日本中に田んぼが広がる前の古い時代にどこで発生してきたかが見えてきた。そして同じような場所はいまだに各地に残っているのだ。

 万葉から令和へと時代は変わり、細々と生きてきたアキアカネが、田んぼという絶好の環境を与えられ爆発的に増えることができた。万葉から今の時代まで環境は大きく変化した。にもかかわらずアキアカネは延々と生き続けてきたのだ。

 生物が次々と消えてゆく中、常蔵さんの田んぼは我々に希望を与えてくれる。

 私たちは自然からの恵みだけで生きている。自然を保っているのは地球上に共生関係があるからだ。アキアカネも共生関係をつなぐ一員なのだ。

(やまぐち・すすむ)●既刊に『米が育てたオオクワガタ』『実物大巨大昆虫探険図鑑』『砂漠の虫の水さがし』など。

『万葉と令和をつなぐアキアカネ』"
岩崎書店
『万葉と令和をつなぐアキアカネ』
山口 進・写真/文
本体1,300円