日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『わたしのふうせん』 原 小枝

(月刊「こどもの本」2021年1月号より)
原 小枝さん

気ままで最強の「赤ずきん」ちゃん!

 みなさんの持つ「赤ずきん」ちゃんのイメージは、どんなだろう? 心配性のお母さんに「任せて!」と言葉を返しながら、オオカミの怖さや悪巧みを知らず疑うことをせず、簡単に惑わされてしまう。何とか狩人に助けられ、一つ教訓を学ぶ女の子。これは私の幼い頃に絵本で親しんだグリム童話の「赤ずきん」ちゃんだ。とても子供らしく、メッセージも至ってシンプル。

 けれど絵本作家マリオ・ラモは、同じく子供らしいのだけど、全く正反対とも言える「赤ずきん」ちゃんを生み出した。何も心配しないお母さん。オオカミをひたすら怖がる女の子。想像力豊かな彼女は、奇想天外な動物たちとの遭遇には戸惑わず、明るく気高く森を進んでいく。しかし、ついに出合ってしまう。それは悪巧みもせず、真っ先に食らいついてくるオオカミ。助けてくれる狩人なんていない…でも!?

 ところで、絵本の主役は絵なのか、文章なのか? 『わたしのふうせん』は明るく楽しいイラストだけで存分に引き込まれる。しかしまた、語りだけを聞いても、絵がどうしても気になってしまう。想像力を何とも膨らませてくれる言葉に溢れているのだ。

 さて、私たちが生きる、様々な情報が飛び交い不安を煽られる日常。未知のことが多いと慎重を強いられる社会。そこにこの絵本は「大丈夫、伸び伸びと行こうよ!」と、語りかけてくる。「わたしのふうせん」を持っていれば、大丈夫なのだ。大人には、明るく大らかな気持ちをもたらす作品だろう。もちろん、そんなメッセージに関わらず、子供は純粋に楽しむはず。ワクワク、ドキドキ。ピーンと張った緊張の糸。笑い? 短い冒険の中に、様々な感覚が体験できるのだ。

 無邪気ながら気高い。気ままゆえに逞しく、頼もしい。怖がり…そして何ともチャーミング! そんな「赤ずきん」ちゃんの魅力を、ご堪能ください。なお、五月に同じ作家マリオ・ラモの、小さな男の子を主人公にした『こわがりのちびかいじゅう』の翻訳も出したので、ぜひご覧ください。

(はら・さえ)●マリオ・ラモの他の絵本に『こわがりのちびかいじゅう』(原小枝/訳)、『ねんねだよ、ちびかいじゅう!』『いちばんつよいのはオレだ』(原光枝/訳)など。

『わたしのふうせん』"
平凡社
『わたしのふうせん』
マリオ・ラモ・絵・文/原 小枝・訳
本体1,600円