
「子どもの難民」という現実に触れてほしい
世界には二、二五〇万人の難民がいます。その半分以上は子どもです。
二〇一六年の春、イギリスで、座る椅子がないとの理由で、難民の女の子が学校への入学を断られました。そのことを知った作家のニコラ・デイビスさんはこの子どもの難民問題を人々にもっと知ってもらいたくて詩を書きました。イラストレーターのレベッカ・コッブさんがその詩に寄り添った絵を描きました。この絵本を刊行することにしたイギリスの出版社は、一冊売れるたびに一ポンドを難民支援団体に寄付することにしました。
小さな女の子が戦争でひとりぼっちになって、必死に逃避行をつづけ、新天地にやってきて、やっと受け入れられ、学校に行けるようになるまでを描いたこの絵本は二〇一九年ケイト・グリーナウェイ賞の最終候補に残り、高い評価を得ました。
絵本を読む年代の子どもたちに、「難民」ということばの意味がわかるだろうかと、初めて読んだときに私は疑問に思いました。でも、朴訥な絵と簡潔な文章でつづられた原作を何回か読んで、この絵本の意図することがじんわりと誰の胸にもしみこんでくると確信が持てました。訳すときには、原作者が訴えたかった現実をなるべく忠実に反映するよう、訳文を工夫したつもりです。作者が日本語で書いたら、こんな文章になってほしいと念じながら、訳しました。読んだ子どもにとって、もちろん大人にも、難民問題を考え、支援を考えるきっかけとなってくれたら、訳者冥利につきます。
下調べとして、故緒方貞子さんが長だったことで日本でも広く知られることになった国連難民高等弁務官事務所、ユニセフ、アムネスティ・インターナショナルなど、難民問題に取り組んでいる国際機関が発表している難民の資料を読みました。また、大きな組織ではなくても、支援に一生懸命な非営利団体が日本国内にもたくさんあることを知りました。たくさんの人々の真摯な活動でひとりでも多くの子どもの難民が救われますようにと、私の心の中にも祈りにも似た感情がわいたこの絵本との出会いでした。
(ながとも・けいこ)●既訳書に『オオカミさん、いまなんじ?』『グレース・ホッパー プログラミングの女王』など。
鈴木出版
『せんそうがやってきた日』
ニコラ・デイビス・作/レベッカ・コッブ・絵/長友恵子・訳
本体1,500円