
気のいいふたり
まだデビューする前の話です。「JOMO童話賞」という童話賞に応募した作品があります。
原稿用紙五枚の短い物語で、童話ですが主人公は子どもではなく、成績不振でリストラされた営業マンと死神。
ありがたいことに、その作品は優秀賞(最優秀賞じゃないです)を頂き、『童話の花束』という作品集に掲載していただきました。
不特定多数の方に読んでもらえる、という初めての経験にドキドキしたことを覚えています。
数年後、私は別の作品でデビューすることになるのですが。ときどきふっと、例の作品を思い出すのです。
あれ、なんとかならないかな─。
作品集に掲載して頂いたときの喜びなどどこ吹く風。もっとたくさんの人に読んでもらいたい、という気持ちがむくむくとわいてきます。
なんて欲深い! ですが、書き手にとって作品というのは、そういうものなのではないかな、とも思います。粗も傷もこみこみで、作品は愛おしいのです。まさに親バカというやつです。
もちろん、受賞作をそのまま本にしたいということではありません。子どもたちに手渡すには、登場人物もストーリーも変えて、児童書として、まるごと書き直す必要があります。でも、そこを変えても、書きたかったことがきちんと残せる自信はあったのです。
そんな中で出会ったのが、理論社の郷内厚子さんでした。初対面のとき郷内さんは第一声、いや二声か三声で、「死神の作品、覚えています」「面白かった」と言ってくださったのです。え、なんで知っているのと驚き、感激しました。
調子に乗ったわたしは、あの作品を児童書として書き直してみたい、と話しました。そんなことから誕生したのが『まいごのしにがみ』です。
なーんのとりえもないと思っているぼくと、仕事のできない死神。
似たもの同士?のふたりが出会ったその先にあるものは……。
それは読んでのお楽しみ!
(いとう・みく)●既刊に『朔と新』『きみひろくん』『天使のにもつ』など。
理論社
『まいごのしにがみ』
いとうみく・作/田中 映理・絵
本体1,200円