日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『おもいではきえないよ』 横山和江

(月刊「こどもの本」2020年6月号より)
横山和江さん

おじいちゃんとの思い出はいつまでも

 絵本『おもいではきえないよ』では、大好きなおじいちゃんとの永遠の別れを、主人公の女の子が受け止めるまでが丁寧につづられています。春夏秋冬を通して女の子がおじいちゃんと過ごす楽しい日々……そして別れ。おじいちゃんがのこした手作りノートに「いっしょに過ごした思い出」を書きしるすことにより、孫娘は「死別」という悲しいできごとを乗りこえていきます。

 ずっとおじいちゃんといっしょにいたい女の子は、おじいちゃんに元気でいてもらうにはどうしたらいいだろうと想像力豊かに考えます。詩的な文章を文字どおり訳すだけだと作品のよさがじゅうぶん伝わりにくいため、作者の意図をくみ取りながら日本の読者の心に届くよう工夫しました。

 この絵本の表紙をはじめて見たとき、色がページからあふれている!と魅了されました。おじいちゃんと手をつないでうれしそうな女の子と、女の子を見つめるやさしいまなざしのおじいちゃん。ページをめくるとさまざまな色が目に飛び込んできます。一般的なくくりでは「悲しい物語」に分類されるかもしれません。けれど、明るく鮮やかな色づかいで前向きに描かれているおかげで、死別の悲しみを受け入れ乗りこえるための、グリーフケアの物語でもあるのではと感じました。また、主人公の想像世界の絵は、子どもののびやかな心のなかを見せてもらったような気持ちになれます。

 文章を書いたのはイギリス在住の詩人ジョセフ・コエロー、絵はオーストラリア在住のイラストレーターのアリソン・コルポイズ(ふたりは刊行後のイベントではじめて対面したそうです)。主人公はインド系家族のようで、インド独特の革ひもや押し花などもでてきます。そんな人種や国の広がりが感じられる点にも心惹かれました。大好きな人との別れを避けて通ることはできません。けれど思い出は心に残り、いつまでもその人を身近に感じられるという作者の想いが伝われば幸いです。

(よこやま・かずえ)●既訳書に『山はしっている』『わたしたちだけのときは』「ベネベントの魔物たち」シリーズなど。

『おもいではきえないよ』"
文研出版
『おもいではきえないよ』
ジョセフ・コエロー・作/アリソン・コルポイズ・絵/横山和江・訳
本体1,500円