![松村由利子さん](/common/uploads/2020_02/watashi01_1.jpg)
エネルギー史を考える
真っ暗な森の中に、ほっとりと明かりが見える。たき火だ。暖かな炎に引き寄せられるように近づく─。火と親しむようになって間もない、遥か昔の祖先の暮らしを想像しながら、一語ずつ探るように、この本を書いた。
きっかけは、二〇一一年の東日本大震災と原発事故だ。私はその少し前まで二十年余り新聞記者として働き、原子力行政の取材にも携わった。だから、原子炉建屋から煙が上る映像をテレビで見た時は、「自分もこの事故に荷担した一人だ」と恐ろしさに身が震えた。
震災後に旧知の編集者と会って真っ先に話したのは、「これから私たちは、子どもたちにどんな未来を手渡せるのだろう」ということだった。電気に頼りきった生活の危うさ、原子力発電に伴う放射性廃棄物の処分問題、悪化する一方の地球環境……。
語り合ううちに、「子どものためのエネルギー史」のような絵本ができたらいいね、という話になった。試行錯誤が始まった。エネルギー消費を抑える「エコライフのすすめ」みたいなストーリーを考えた時期もあれば、「人類って、自然から収奪し続けてきたんだなぁ」と落ち込むこともあった。
あまりに大きなテーマであり、遅々とした歩みだったが、少しずつ伝えたいことがはっきりしてきた。取り組み始めたころは「原子力から再生可能エネルギーへ」というメッセージを前面に出そうと考えたが、全体のバランスを考え、解説で触れるにとどめた。
人類はエネルギーの使い方を工夫することで、文明を進歩させてきた。けれども、これから地球で他の生物と共存し続けるには、従来の暮らし方を見直さなければならない。今までの歴史に連なる新しい物語をみんなで担ってゆこう─温暖化の進行など厳しい現実を見据えつつも、未来を明るく思い描く絵本にしたいと考えた。
小林マキさんは、私の思いをとてもよく汲み取り、くきやかな描線と色使いで人類史を美しく簡潔に描いてくださっている。長く読まれる一冊となりますように。
(まつむら・ゆりこ)●既刊に『少年少女のための文学全集があったころ』、訳書に『風の島へようこそ』など。
福音館書店
『はじまりは たき火 火と くらしてきた わたしたち』
まつむらゆりこ・作/小林マキ・絵
本体1,400円