日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『はしる!新幹線「のぞみ」』 鎌田 歩

(月刊「こどもの本」2012年6月号より)
鎌田歩さん

新幹線の魅力

「新幹線の絵本、つくりませんか?」と依頼をいただいたとき、楽しみな気持ちと反面、自分にできるのだろうかと、正直躊躇したことを覚えています。

 誰もが知っている新幹線は、子ども向けはもちろん、大人向けのものまで、様々な媒体ですでに描かれています。そのため、今回新しい絵本として、新幹線の何をどのように描いていけばよいのか、自分のなかではっきりとしたイメージを持てないでいました。

 そして今回描くことになったのは、たくさんある新幹線のなかでも特に有名な「東海道新幹線」。歴史も古く、最新車両のN七〇〇系が登場してさらに注目を集めています。

「やっぱり〝スピードとかっこよさ〟だろうか」︱そう考えながら取材を始めると、東海道新幹線の車両や線路に関する資料はいくらでも集めることができました。最新の車両技術、在来線とは違う線路の仕組み……、なんでも揃っている東海道新幹線なのですが、何かピンときませんでした。

「絵本として伝えたい新幹線の魅力とはなんだろう?」と、あらためて考え直すことになりました。

 担当の編集者さんと何度か打ち合わせを重ねたときに、「東海道新幹線が通る、日本の名所を見所にできないか」との提案がありました。考えてみれば、新幹線が持つ魅力は、機械の性能ばかりではないはずです。

 地図のなかの線路を詳細に追いかけていくと、東海道新幹線の走る風景は、ほかの路線と比べて、かなり変化に富んでいることが分かってきました。街を抜け、畑や田んぼ、お城の横を通り過ぎ、長いトンネルを抜けたかと思えば海が見え、大きな川、湖を渡る……びっくりするようなたくさんの景色に 出会えます。そのなかを走り抜ける 「のぞみ」の、一番かっこいい瞬間を伝えることができたら……。描きたい場面が次々に浮かんできました。

「速くてかっこいい東海道新幹線に乗って、驚くような旅をしてほしい」

 新幹線の魅力は、難しいようで、簡単なことなのかもしれません。

(かまた・あゆみ)●既刊に『新幹線 しゅっぱつ!』(福音館書店)がある。

「はしる!!新幹線「のぞみ」」
PHP研究所
『はしる!新幹線「のぞみ」』
鎌田 歩・作・絵
本体1,200円