
人の心に火をともす仕事
東京都足立区に住む堀田健一さんは、体の不自由な方やお年寄りでも楽に乗りこなせるバリアフリーの自転車を、約四十年も作り続けてきました。
堀田さんが考案した「踏み込み式」と呼ばれる大型の三輪車は、左右どちらかのペダルを軽く踏むだけで走ります。だから、片方の足が不自由な方でも自転車に乗れるのです。その人の体の状態によって、一台一台完全オーダーメイドで設計しています。
この自転車を使えば、車椅子や自動車を利用するより体の動かせる部分が鍛えられてリハビリになり、一石二鳥の効果があがります。何よりそれまで家に閉じこもっていた人が、風を切って外出することができるのです。
しかし一つ一つの自転車の製作に手間暇をかけると、もうけはほとんどありません。新聞などで話題になるときはいいのですが、ひとしきり作ってしまうと後の注文がなかなか入りません。収入が減って子どもの給食費を払えなかったこともありました。
さらに、大企業から商標のことでクレームが来たり、警察にモーター付きの自転車の免許のことでかけあったり……。そのご苦労はまるで『下町ロケット』を思わせるものでした。
それでも堀田さんは、「人の心に火をともそう」と、奥さんと支え合いながら、がんばり続けてきたのです。工場を手伝いながら堀田さんの前妻の子二人を育てあげた奥さんの苦労も、並大抵ではありませんでした。
そこでこの本では、自転車製作の話の中に、奥さんやお子さんとの「家族の物語」も盛り込むことにしました。
それにしても堀田さんはホスピタリティーにあふれた方で、自転車を使っている方の家に取材に行くときも自動車で私の家まで迎えに来てくださるなど、何から何までお世話になり、恐縮することばかり。
世知辛い今の世の中ですが、読者の子どもたちがこの本を読んで、「こんな人もいるんだ」「こんな職業選択の仕方もあるんだ」と、少しでも心を動かしてくれたらうれしいです。
(たかはし・うらら)●既刊に『災害にあったペットを救え』『聴導犬こんちゃんがくれた勇気』など。
金の星社
『風を切って走りたい! 夢をかなえるバリアフリー自転車』
高橋うらら・著
本体1,400円