
女の子とドラゴンの友情物語
むかしから、ドラゴンの出てくる物語が好きだった。『指輪物語』、『はてしない物語』、「ゲド戦記」シリーズ……。ファンタジー世界に住まうドラゴンたちは、巨大で、誇り高く、知恵があり、時に恐ろしく、人間など遠く及ばない偉大な存在だった。そんな彼らに畏怖の念を抱きつつ、ずっとあこがれてきたように思う。
でも、本書『最後のドラゴン』に登場するグリシャは一見、そうしたドラゴンたちとはちがう。暮らしているのは、一九世紀のドイツの森~二〇世紀のウィーンのホテルだし、大きさもふだんは人間よりちょっと大きいくらいで、魔法も使えず、挙げ句にティーポットにされてしまう。「将来偉大なことを成し遂げる」と言われても、「気恥ずかしく」なってしまうような、ドラゴンらしからぬ控えめなドラゴンなのだ。
でも、そんなグリシャだからこそ、やはり一見ごく平凡な人間の女の子マギーと仲良くなる。二人がゆっくりと、互いの気持ちを思いやりながら、距離を縮めていくようすが丁寧に描かれ、相手のことを大切に思う尊さに打たれずにいられない。
けれど、「ゆっくりと」何かをする時間を失った人間たちには、ドラゴンたちのことを考える余裕などない。かつてのように戦場で役に立つこともないドラゴンたちは、もはやお荷物にすぎない。やがて七十頭以上のドラゴンが行方不明になるが、人々は彼らのことを忘れていく。
「忘れたのは、覚えているよりもそっちのほうがらくだったからだと思う。起こってしまったことに対し、どうすることもできなかったから」
このグリシャのセリフを読んだとき、ぜったいにこの本を訳さなければ!と思った。
そういえば、「ゲド戦記」の著者ル=グウィンは「アメリカ人はなぜ竜が怖いか」というエッセイでこんなふうに書いている。「『いったい、何の得があるのだ』と彼は言うでしょう。『竜だと? ホビットだと? 緑の小人たちだと? そんなのものがいったい、何の役に立つのだ?』」
(さんべ・りつこ)●既訳書にC・クラーク『パンツ・プロジェクト』、A・スノウ『だれも知らないサンタの秘密』など。
あすなろ書房
『最後のドラゴン』
ガレット・ワイヤー・著/三辺律子・訳
本体1,600円