体験と想像を混ぜ合わせて
私は小学一年生から中学三年生まで九年間、地元のクラブチームでサッカーをしていました。児童小説を書くにあたり自分が夢中だったものを題材にしたことで、どんな気持ちでサッカーをしていたのか、実際の体験を思い出して作品に向かっています。しかし私の実体験だけでは、今の少年サッカーを描ききれません。現在二十歳の私が小学生の頃とは試合の人数やルールが大きく変化していて、私と読者の間に認識の差が生まれてしまいます。
そんな差を埋めるために、私は少年サッカーの現場に足を運ぶことを重視しました。一昨年の年末には、鹿児島県で開催された全国少年サッカー大会を取材して、児童小説の読者層である選手たちからお話を伺うこともできました。コーチや保護者、そして小学生たちのサッカーにかける情熱を肌で感じた経験が、少年サッカーの児童小説を書くことの基盤となっています。
さらに今作の執筆にあたって、非常に参考になったものがあります。それは『最後のロッカールーム』という、全国高校サッカー選手権大会のドキュメンタリー作品のDVDです。冬の風物詩にもなっているこの大会は、勝ったチームだけでなく負けたチームにもスポットが当たります。敗戦後のロッカールームで、選手たちは人目をはばからずに涙を流して悔しさを露わにします。最後の大会に敗れ感情を爆発させる姿は、サッカーに本気で向き合ったことを物語っていました。
実体験だけでは感じきれない人物の感情や気持ちに思いを巡らすためには、想像が必要です。私がこの身で感じた情熱や感情の吐露は、そんな想像の原動力となりました。新刊では、転校という仲間との別れを一つのテーマにしています。高校進学で地元から離れた学校を選んだ体験を思い出しながら、小学生が転校で味わうさみしさや新しい学校での孤独を想像しました。少年サッカーの現在も全身全霊をかけてサッカーへ向き合う姿も、この作品に繋げています。感情をぶつけ、気持ちを通じ合わせる登場人物たちを見ていただけると幸いです。
(かわばた・あさひ)●既刊に『FC 6年1組 クラスメイトはチームメイト!一斗と純のキセキの試合』など。
集英社
『FC6年1組 涙のラストゴール!最後のロッカールーム!』
河端朝日・作
千田純生・絵
本体640円