
物語の主人公が語る供養絵
初めて供養絵を見たときの驚きと感動は今でも忘れることはできません。(供養絵とは、江戸時代から大正時代にかけて岩手のお寺に奉納された、故人の幸せを祈って描かれた絵のことです。)
その思いを一言で語ることは難しく、それならば、物語の主人公に語ってもらおうと試みました。幼くして母を失った主人公の少女は、物語の中で悩み、苦しみつつも、動き出します。そして、悲しみを癒やすためにスケッチブックに描いていた母の絵が、やがて、遠野のお寺で見た供養絵と重なっていくのです。
誰でも、かけがえのない人との別れはあります。どうしようもない悲しみに打ちのめされたとき、それを救ってくれるものは何でしょうか? そんな心の問いかけに真摯に向き合ったとき、物語は生まれました。
岩手は豊かな自然と風土に恵まれています。舞台となった遠野は民話のふるさとで、「遠野物語」発祥の地です。岩手の風景、風の音、雨の感触、土の香りなど想像しながら読み進めてください。
この物語は、自分自身への挑戦として第26回小川未明文学賞へ応募したものです。476編の中から選んでいただいたのは、作品の技術や完成度ではなく、ただひたすらに「書きたい」という作者の強い気持ちが感じられたからだと伺いました。選考委員のおひとりで詩人の小川英晴さんが「この作品には、なによりも文学がある」と評してくださったことはとても嬉しいことでした。未明作品の持つ文学性も、作品への一途な思いから生まれたものかもしれません。
シライシユウコさんのイラストがタイトルとマッチし、優しく美しい世界に誘ってくれます。小学校高学年から大人の方まで読んでほしいと思います。
(ちばるりこ)●既刊に『さがしものクリニック』。
学研プラス
『スケッチブック 供養絵をめぐる物語』
ちばるりこ・作
シライシユウコ・絵
本体1,400円