日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

我が社の売れ筋 ヒットのひみつ7
『いい人ランキング』 あすなろ書房

(月刊「こどもの本」2019年1月号より)
『いい人ランキング』

川を渡れ!
『いい人ランキング』
吉野万理子 著
2016年8月刊行

「いい本」と「売れる本」との間には、見えない川が流れている。この川を、いかにして渡るか? それが、自称「出版屋」の課題だ。

 吉野万理子さんの『いい人ランキング』は、海辺の街を舞台にした青春小説。中学二年の女の子桃が、「いい人ランキング」で一位になったことをきっかけにいじめにあい、追いつめられていくのだが……。

 まず、吉野さんの考えたタイトルがすばらしい。「いい人」も「ランキング」も、だれもが知っている言葉だし、単独で見ると特別なインパクトもないが、いっしょになると、このパワー! このタイトルで、見えない川の川幅は、だいぶ狭まった。

 さらに、デザイナーの城所潤さんに原稿を読んでもらい、装丁について相談した。カバーには、不安そうな表情の少女が教室で佇んでいるイラストをいれる。そうすると、学校が舞台のお話だってすぐわかるでしょ。うん、確かに! そして長田結花さんはイメージ通りの、いやそれ以上のものを描いてくださり、不穏なムードは増大した。

 実は本書、カバーにもオビにも、どこにも「いじめ」という言葉を使っていない。「いじめ」という言葉は強いけど、いじめを扱った本はたくさんあるし、ストーリーも予測がつきやすい。それよりももっとミステリアスな、何かよくないことが起こりそうな気配だけど、何が起こるんだろう……? というほうが、手にとりたくなるのではないかと考えたのだ。

 手にとってもらえたら、みんな気に入るはず! と確信していた。なにしろ、いじめについて、いじめられる側だけでなく、いじめる側や周囲の心理もリアルに描いているし、その意外な解決法まで書いてある。リアリティと起伏のあるストーリーは、テレビドラマの脚本でならした吉野さんの筆が冴える。「人間関係に悩む中学生の実用書たりうる一冊」と書いてくださった書評もあった。

 結果は大当たり! YAとしては異例のヒットとなった。ある中学校では、図書館司書の方いわく「この本、返却されたかと思うと、すぐ別の子が借りていっちゃって棚をあたためている暇がない!」そうだ。実にうれしい。

 しかし、今こうしてふりかえってみると、「いい本」で終わってないのはいいことだが、この川を渡れたのは、ひとえに著者の吉野さんとデザイナーの城所さんのおかげかも…?出版屋、たいしたことしてない。しかもこの連載、「ヒットのひみつ」ということだけど、これって別に秘密でもないし……。みなさんのお役に立つようなことを書けなくて、かたじけない。出版屋の課題は、まだまだ続く。

(あすなろ書房 山浦真一)