日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『若草物語1 仲よし四姉妹』 谷口由美子

(月刊「こどもの本」2019年1月号より)
谷口由美子さん

百五十年たっても、みずみずしい魅力のある物語

『若草物語』は、私の子どもの頃からの愛読書でした。それも、全四巻をすべて読んでおもしろいと思っていたので、大人になってから、第一巻しか出ていないのを知って、残念でたまりませんでした。原書で読めるようになると、ますますこれを大勢の子どもたちに読んでほしいと思うようになり、青い鳥文庫で、第二巻、第三巻、第四巻を訳しました。

 ですから今回、第一巻を訳せることになって、ほんとうにうれしく思いました。原書はとても分厚く、中身が濃くて、読めば読むほど、ルイザ・メイ・オルコットの文章のすばらしさがわかります。小さい頃からシェークスピアやディケンズなど、優れた文学作品を愛読していた彼女の文章には、宝石のように磨かれた美しさがあります。

 子どものための名作全集に入っている『若草物語』はだいたいとても短いのですが、わくわくするストーリーが展開されるので、よく売れています。けれど、筋書きだけではなく、中にちりばめられている、たくさんのエピソードが、この物語の大きな魅力なので、今回は、そのおもしろさが生かされるように訳しました。たとえば「一週間の実験」という章を、一度も笑わずに読みおえられる人はいないのではないでしょうか。オルコットはユーモアを愛し、それをうまく人生のスパイスにした人です。また、マーチ四姉妹のおてんばジョーがとりわけ生き生きと描かれているのは、オルコットの分身がジョーだからでしょう。

 この作品が今の時代まで古典として残っているのは、人間の普遍的な愛や悲しみや笑いが、現代の読者の心にもまっすぐ伝わるように書かれているからだと思います。この作品が書かれたのは、一八六八年(明治元年)です。ですから今年は出版百五十周年にあたります。原題は、Little Women(小さな婦人たち)といいますが、一九三四年に映画『若草物語』が公開されてから、このタイトルが定着しました。まさしく若草のようにさわやかな四人姉妹の物語にぴったりだと思います。

(たにぐち・ゆみこ)●既訳書にワイルダー「ローラ物語」シリーズ、ウェブスター『あしながおじさん』など。

『若草物語1
講談社
『若草物語1 仲よし四姉妹』
ルイザ・メイ・オルコット・作
谷口由美子・訳
藤田 香・絵
本体740円