日本児童図書出版協会

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こどもの本

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「オニのサラリーマン」シリーズ 福音館書店

(月刊「こどもの本」2018年11月号より)
「オニのサラリーマン」シリーズ

地獄勤めのお父さん大奮闘
「オニのサラリーマン」シリーズ
富安陽子文 大島妙子絵
2015年10月~刊行

「わし、オニでんねん。すんまへん」

 二〇一五年の秋、この強烈なひと言ではじまる絵本『オニのサラリーマン』が誕生しました。

 そもそものきっかけは、著者である富安陽子さんが二〇一四年のお正月にみた"初夢"。夢に出てきた赤鬼は地獄に勤めるサラリーマンで、家族に見送られ仕事場へ出勤。それがあんまりよくできた夢だったので、富安さんは目覚めて一気に絵本原稿を書き上げました。

 この「完成度の高い初夢」をもとにした案に、「それは面白いですね!」と即座に編集部が乗り、大島妙子さんに絵を依頼。ラフの検討を進める中、大島さんのさまざまな発案で物語はいっそう豊かに広がり、ユーモラスでパワフルな地獄カンパニーの全体像が完成しました。

 こんなふうに、まさに「夢」のような展開から、地獄勤めのオニのお父ちゃんが大奮闘する、この絵本シリーズが誕生したというわけです。

 二〇一七年秋には二冊目の「しゅっちょうはつらいよ」を刊行。シリーズというにはずいぶんゆったりした刊行ペースではありますが、一冊目から読者の反響は大きく、発売以来順調に版を重ね、誕生からまだ数年とはいえロングセラーとなる勢いを見せています。

 大島さんの描くキャラクターは個性派ぞろいで、画面にはさまざまな「遊び」が施され、隅々にまで「発見」の楽しさがあります。それになんと言っても、よく練られた大阪弁によるテキストの効果は大きく、言葉の軽妙なリズムでぐいぐい物語に引きこまれます。文と絵が刺激し合い、挑発し合いながら面白さを増す―「こわい」世界もどこか親しみのもてる世界に変わり、子どもたちを惹きつけるのかもしれません。

 当初編集部では、未就学児にはやや難しい内容かもしれないという声もありましたが、「二歳の子が面白がって大受け」「こわがり屋の子が自分から本を持ってきた」「お父さんと楽しんでいる」等の声も寄せられ、小さい子どもたちにも受けいれられていることがわかりました。また、オニのお父さんに人間のお父さんを重ねて、「サラリーマンの悲哀が描かれていて共感」というような大人の方からの反応もあり愉快でした。

 編集部に届いたたくさんのお便りから、大人と子どもが物語世界を共有し、一緒に楽しんでいる様子がうかがえ、それはとても嬉しいことでした。

 現在、シリーズ第三弾を準備中です。しっかり時間をかけて、子どもたちに長く楽しんでもらえる絵本づくりをめざしたいと思っています。

(福音館書店 西 裕子)