日本児童図書出版協会

児童書出版文化の向上と児童書の普及を目指して活動している団体です

こどもの本

私の新刊
『本屋さんのルビねこ』 野中 柊

(月刊「こどもの本」2018年10月号より)
野中 柊さん

本が大好きな猫

 ルビねこ─もちろん、架空の猫です。でも、実在の猫でもあります。わたしと一緒に暮している猫がルビというのです。この子を主人公に、物語を書きたいと思いました。

 だから、ある日、

「ね、ルビ、どんなお話にしようか」

 日向で寝そべっている猫に問いかけてみたところ、

「そうだな、みゃーう?」

 ぴんと尖った耳を前足でこすりながら、ちょっと眠そうな声。

「ぼくの好きなものが、たくさん出てくると嬉しいな。美味しいものとか、お魚とか、それから、本とか」

 そうです、ルビは本が好きなのです。まだほんの子猫の頃から、わたしが読書をしていると、そばに寄り添って、神妙な顔をしていたものです。そして、ときには、ページをめくる手にじゃれついたり、本を枕にして寝入ってしまったり。

「じゃあ、本屋さんのお話はどう? ルビは、看板猫なの。自分にぴったりの本や言葉を探しているお客さんたちのお手伝いをするんだよ」

「みゃう、看板猫?」

 ひげをふるっと震わせて、ルビはまんざらでもないようすでした。

「うん、そう。それもね、ただの猫じゃないんだな。だって、きみは」

 と、そこまで言って、わたしは考えました。ただの猫じゃない? どんなふうに、とくべつなのでしょう?

 そして、思いついたのです。ルビは、本の上に積もったほこりから生まれた猫なのだ、と。

「そっか。だから、ぼく、紙やインクの匂いをかぐと、なんだか、とても懐かしい気持ちになるんだね?」

 と、こんなふうに愛猫と会話を交わしつつ、わたしは『本屋さんのルビねこ』を書き進めていったのでした。

 シリーズ第1巻です。これから先もまだまだ続く、ルビの成長がわたし自身、とても楽しみ! 本の素晴らしさ、かけがえのなさを、この物語を書きながら、あらためて感じています。

 子どもたちの心に届きますように。

(のなか・ひいらぎ)●既刊に「パンダのポンポン」シリーズ、『ヤマネコとウミネコ』、絵本『赤い実かがやく』など。

『本屋さんのルビねこ』"
理論社
『本屋さんのルビねこ』
野中 柊・作
松本圭以子・絵
本体1、400円